「ヒューマンエラーを防ぐ知恵」
化学同人が最近刊行し始めたDOJIN選書だが、前に紹介した「なぜ人は宝くじを買うのだろう」が、内容が中途半端で何だかなぁってだけでなく、著者の勘違い?で発売早々に大幅改訂されるというトホホな本だった。それに懲りずに、タイトルに惹かれて本書を買ったのだが、帯には「事故への道を知り、事故を避ける。すぐに役立つ、ヒューマンエラー防止のノウハウ。」とあり、実に実践的な内容のようだ。まえがきには、
本書は、安全に携わる人びとの役に立つことを第一の目標とし、ヒューマンエラーによる事故を防ぐ方法を提供することに力点を置いています。本のテーマとしてヒューマンエラーを選ぶと、それだけを論じる形となり、事故を防ぐための方法論は閑却してしまいがちです。もちろん、学術的にはヒューマンエラーの正体について考察を深めることも有意義でしょう。しかし、「ヒューマンエラーの真相はよくわからないが、こうすれば防げる」というノウハウの方が必要なのではないでしょうか。また、ノウハウを現場で適用するためのコツを示して、読者がすぐに実践できるよう配慮しました。とあり、いわゆる実用的で役に立つ本を目指したもののようだ。
DOJIN SENSHO 4
ヒューマンエラーを防ぐ知恵 ミスはなくなるか
中田 亨 著 bk1、amazon
本書は、
第1章 ヒューマンエラーとは何か
第2章 なぜ事故は起こるのか
第3章 ヒューマンエラー解決法
第4章 事故が起こる前に……ヒューマンエラー防止法
第5章 実践 ヒューマンエラー防止活動
第6章 あなただったらどう考えますか
第7章 学びとヒューマンエラー
という章立てで、前半はヒューマンエラーとはどんなもので、どんな状況で、どのように起こるのかといったことを実例を交えながら解説し、後半で数多くの事例についての具体的な対策を一緒に考えるような構成となっている。
著者は産総研のデジタルヒューマン研究センターの研究員ということだが、「ヒューマンエラー研究家」という看板を持っているとのことで、かなり広い分野の多くの例を実際に見聞きして、その対策を考えてこられたようだ。ということで、本書はそれほど系統だっているわけではないのだが、とてもバラエティに富んだ事例がたくさん登場してくるので、かなり面白い。
企業などで実際に安全関係の仕事に関わった経験のある人は多いと思うのだが、どうしても自分の属する業界の、その中でも非常に狭い領域の安全のことだけに特化している傾向があるのではなかろうか? 本書には、一つひとつはさほど高度なノウハウでもないように思えるのだが、自分の良く知らない他の業界の事例がたくさん出てくるためなのか、ちょっと新鮮な物の見方や、少し意外な解決法が見つかったりする。
ということで、確かに著者の狙い通り、とても実践的で、実務者にとって参考になる本だろうと思う。もちろん、仕事上では安全とは直接関係のない方でも、本書を読むと普段の仕事などに参考になる点もあると思うし、単なる頭の体操として捉えても結構面白い発見があるのではないだろうか。
面白かった例をひとつだけ紹介する。これは、医師が書いたメモが悪筆だったため、部下の看護師がこれを読めず、しかも気が弱かったので医師に確認することができず、勘に頼って行動したために機器の操作を間違ったという事例。本書で紹介されている対策例の中で意外だったのが、上司の間違いを正す体験や、部下に間違いを正される体験をする模擬演習を行うというもの。
どうだろう? 僕も今まで会社などで実にさまざまな研修を受けてきたけど、こういう研修や演習は経験がない。この研修はヒューマンエラー対策だけでなく、職場などでのコミュニケーションを活性化したり、部下が言いたいことが言えずにフラストレーションが溜まってしまうような環境を変えたり、といった目的にも役立ちそうだ。何よりも、部下からの指摘をまともに受け止めることのできない上司が、こんな研修を通じて少しでも変わってくれるとすると、これは多くの人にとって非常に魅力的ではないだろうか?
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