« 2007年6月 | トップページ | 2007年8月 »

2007/07/30

貴金属の使用量を半減させる新しい自動車触媒技術

Tech On! のニュース(7/30)から。日産、貴金属の使用量を半減するガソリン車用の新触媒を開発

 日産自動車は、従来の約50%の貴金属の使用量で、排ガスを浄化するガソリン車用の新触媒を開発した。2008年度に発売する新型車より採用し、拡大を図る。

 クルマの触媒には、排ガスを浄化するために、Pt(白金)、Rh(ロジウム)、Pd(パラジウム)などの貴金属を使っている。通常、アルミナ基材の上に貴金属を分散させて配置しているが、排ガスの高熱にさらされると貴金属同士が凝集し、表面積が小さくなり、浄化作用が低下してしまう。このため従来の触媒では、性能を維持するために、あらかじめ貴金属の使用量を増やしておく必要があった。

 日産は、触媒中の構造をナノレベルで見直した。基材の上に乗った貴金属が凝集しないように、基材の間にしきり材を配置する。これにより貴金属の表面積の減少を防ぎ、従来の約50%の貴金属の使用量で、従来と同等のきれいな排気浄化性能が実現できた。なお、本技術の開発は、フランスRenault社と協力して取り組んだ。

貴金属の使用量を半減するということで、どんな技術なのか興味のあるところだが、「基材の間にしきり材を配置」って、一体どんな構造なんだ? 日産自動車のプレスリリースを見ると
貴金属は排出ガスの高熱にさらされると貴金属同士が凝集し、表面積が小さくなり、排出ガスをクリーンにする作用が低下してしまう。このため従来の触媒では、排出ガスをクリーンにする性能を維持するために、予め貴金属の使用量を増やしておく必要があった。

日産は、触媒中の構造をナノレベルで見直し、貴金属をしきり材で細かく分離することにより、貴金属同士が凝集することを防ぐ世界初の技術を開発し、今回の新触媒に採用した。

ということで、模式図が載っているので、この技術がどんな狙いで行われているのかはわかるのだが、表現は新聞記事と全く同じで、技術の詳細は全く不明だ。

このリリースが7/27に報じられたことで、ニューヨークでは白金価格が大暴落し、「日産ショック」と呼ばれるほどの事態となったとのこと。まあ、日産クラスの会社が正式なリリースで発表したのだから、影響も大きかったのだろう。それにしても、一体どんな技術なんだろう?

試しに特許電子図書館で検索して見つけたのが、たとえば特開2007-000697「排気ガス浄化触媒」。これは、

【請求項1】
多孔性酸化物から形成される担体と、前記担体の細孔内部に担持された貴金属粒子と、前記貴金属粒子の凝集 を抑制する凝集抑制材と、を有することを特徴とする排ガス浄化触媒 。
というもので、包接材としては、アルミナ、ジルコニア、チタニア、セリア、シリカなどを使用するようだ。触媒製造時に、有機溶媒中に貴金属原料塩溶液と担体材料を混合し、これに包接材原料溶液および包接材水和剤を加え、触媒前駆体を調製し、これをろ過、洗浄、乾燥、焼成するというもの。随分と簡単な調製方法だが、調製条件の精密な制御によって、貴金属粒子が包接材で包まれたような構造が得られるのだろう。

また、特開2006-326554「排気ガス浄化用触媒、及びその製造方法」では、

【請求項1】
貴金属粒子と、該貴金属粒子を表面に担持した微粒子と、該微粒子を設けた基材とを備え、前記貴金属粒子の外表面の少なくとも一部を、貴金属粒子同士の凝集による肥大化を抑制する肥大抑制材で覆ったことを特徴とする排気ガス浄化用触媒 。
というもので、肥大抑制材としては、Ce,Zr,Mn,Co,Fe,Ni,Sn,Cuなどの酸化物が使用され、担体微粒子上に貴金属微粒子を担持した後、その外表面上に肥大抑制材の金属を選択析出させ、焼成して酸化物とするようだ。

上記2件は、貴金属粒子同士が凝集、肥大化(シンタリング)することを、貴金属粒子表面に付加した包接材や肥大抑制材によって物理的に防ごうとするものだが、特開2007-029863「排気ガス浄化用触媒」は、これらとは少し異なり、

【請求項1】
貴金属粒子と、該貴金属粒子が担持された基材と、貴金属粒子の周囲のうち、貴金属粒子と基材との接触面以外の部位に配置された遷移金属酸化物粒子とを備え、貴金属粒子に対してアンカー効果を有する金属酸化物が前記基材中に含まれていることを特徴とする排気ガス浄化用触媒。
というもので、貴金属粒子を担体上に固定して動きを抑制しようというもののようだ。遷移金属酸化物としてはFe,Mn,Co,Ni,Sn,Ti,Y,Zn,Mg,Caの群から選択される元素の酸化物又は複合酸化物が使用され、これが貴金属粒子同士の接合を防止するいわゆる肥大抑制材となり、さらに基材中に添加する金属酸化物(セリウムの酸化物、またはセリウムとジルコニアの複合酸化物)が貴金属粒子と基材とを固定する役目(アンカー効果)を担うようだ。

こうやって見ると、触媒表面を模式図的に表すと、確かにナノレベルで微構造を制御したもので、ナノテクノロジーと言えるのかもしれないが、実際の製造方法は、結局のところ従来からの湿式調製方法とほとんど同じであるとも言える。これを、ナノテクノロジーなどという流行の用語で宣伝するほどでもない従来型の技術(ローテク)と受け取るのか、それとも従来からの技術を使いながらナノレベルで構造を制御することを可能とした高度な技術(ハイテク)と捉えるのか? いずれにしても、このような技術で貴金属の使用量を半減できるのだとしたら、素晴らしい技術であることは確かなのだが。。

| | コメント (0) | トラックバック (1)

2007/07/27

アメリカ人が信じるがんに関する12のウソ

またまた、LiveScienceのニュース(7/26)から。12 Common Cancer Myths Debunked

Numerous Americans believe a score of scientifically unproven claims about cancer, with some people thinking shampoo and underwire bras cause tumors.

A nationally representative telephone survey by the American Cancer Society of nearly 1,000 U.S. adults who had never been diagnosed with cancer revealed a surprising number agreed with inaccurate or unlikely statements about cancer risk and prevention statements.

Individuals with lower education levels were more likely to believe the myths. And men were more likely than women to be duped.

アメリカで、ガンと診断されたことのない成人1000人を対象に調査した結果、がんに関する不正確だったり非科学的な言説を信じる人が驚くほど多いことが明らかになったというもの。その間違った言説を具体的にひとつずつ見ていくと、
1. The risk of dying from cancer in the United States is increasing.
「アメリカでは、がんの死亡リスクが増加している」 というのが最も多くの人(67.7%)が間違えた言説。 ほお、アメリカではがんによる死亡率は減少しているのか? 予防と検診、アメリカの成果によると、死亡率は確かにかなり減少している。最近は死亡者数も減っているようだ。年齢調整をしたらどうなるのか、などについてはがん情報サービスあたりが詳しい。がんが減ってるのは喜ばしいのかもしれないが、肥満に伴う心疾患などが増加しているのであれば本当は憂うべきことなのかもしれない。(参考
2. Living in a polluted city is a greater risk for lung cancer than smoking a pack of cigarettes a day.
「たばこを1日1箱吸うよりも、汚染された街に住む方が肺がんのリスクが大きい」 が第2位。どの程度「汚染された街」にどれだけの期間住むのかを特定しないと、どちらとも言えないというのが正しいような気がするが、たばこの有害性を人々が過小評価しているというのも確かなのだろう。
3. Some injuries can cause cancer later in life.
「ある種のケガは後にがんを引き起こす」 が第3位。日本ではこんな話は聞いたことがないなあ。ちょっと検索してみたけど、それらしい説は見つからなかった。
4. Electronic devices, like cell phones, can cause cancer in the people who use them.
「携帯電話等の電子機器は使用者に対してがんを引き起こす」 一部ではそんな議論がまだ続いているような気もするが、基本的には否定された言説だろう。
5. What someone does as a young adult has little effect on their chance of getting cancer later in life.
「青年期に行ったことは、その後の人生でがんになる確率にはほとんど影響しない」 漠然としているが、喫煙を念頭に置いている質問なのだろうか?
6. Long-time smokers cannot reduce their cancer risk by quitting smoking.
「長期間喫煙していた人が禁煙してもがんのリスクは下がらない」 これは、なかなか禁煙できない人が自己正当化のためにも信じたい、ということだろう。
7. People who smoke low-tar cigarettes have less chance of developing lung cancer than people who smoke regular cigarettes.
「低タールたばこを吸う人は、レギュラーたばこを吸う人よりも肺がんになる確率が小さい」 これは多分日本でも同様の傾向となりそうだ。たばこ会社の宣伝効果もあるから、「少しは効果があるだろうし、そうあって欲しい」という願いを込めて信じられているのではなかろうか。
8. Personal hygiene products, like shampoo, deodorant and antiperspirants, can cause cancer.
「シャンプー、消臭剤、制汗剤などががんを引き起こす」 あまり日本では聞かないが、こんな話らしい。
9. Getting a mammogram, or using a special X-ray machine to detect breast cancer, can cause cancer of the breast.
「マンモグラフィや乳がんを検出する特殊なX線装置が乳がんを引き起こす」 診断のために浴びるX線がかえって発がんのリスクを高めるのではないか、という議論だろうか。
10. Getting a base tan or base coat at a tanning salon will provide protection from skin cancer when you go outside in the sun.
「日焼けサロンでの日焼けは、戸外で日に当たる際の皮膚がんを防止する」 これまた、あまり聞いたことがない。
11. Underwire bras can cause breast cancer.
「ワイヤーブラは乳がんを引き起こす」 何だこりゃ? 検索してみたけどそれらしい話は日本では見つからない。
12. You cannot get skin cancer from using a tanning booth.
最後は「日焼けマシンを使っても皮膚がんにはならない」 日焼けマシンによる皮膚がんのリスクについては、WHOが勧告しているようだ。

アメリカならでは、というのもいくつか見られるのが面白いところだが、日本で同様の調査をするとしたら、日本独自のウソとしてどんなものがリストアップされるのだろう? 怪しげな民間療法の類はいろいろとあるから、リストを作るのが一番大変かもしれない。

| | コメント (4) | トラックバック (1)

2007/07/23

指紋から性別、嗜好、人種なども判別可能な新技術

LiveScienceのニュース(7/20)から。New Fingerprint Technique Could Reveal Diet, Sex, Race

Standard methods for collecting fingerprints at crime scenes, which involve powders, liquids or vapors, can alter the prints and erase valuable forensic clues, including traces of chemicals that might be in the prints.

Now researchers find tape made from gelatin could enable forensics teams to chemically analyze prints gathered at crime scenes, yielding more specific information about miscreants' diets and even possibly their gender and race.

犯罪捜査などで使用されている、粉末、液体または蒸気などを使った現在の指紋採取技術では、犯人特定に役立つはずはずの、指紋に含まれる微量の化学物質が変化したり失われてしまうという問題がある。今回、ゼラチン製のテープを使って、指紋から微量の化学物質に関する情報を収集する新技術が開発されたというニュース。
The gel tape can gather prints from a variety of surfaces, including door handles, mug handles, curved glass and computer screens, just as conventional fingerprint techniques can. The gelatin is then irradiated with infrared rays inside a highly sensitive instrument that rapidly takes a kind of "chemical photograph," identifying molecules within the print in 30 seconds or less, said physical chemist Sergei Kazarian at Imperial College London.

Fingerprints contain just a few millionths of a gram of fluid, or roughly the same amount of material in a grain of sand. That might, however, be enough to determine valuable clues about a person beyond the print itself, such as their gender, race, diet and lifestyle, Kazarian and his colleagues find.

この方法は、ゼラチンテープを指紋の付いた面に当てて、表面に付着している微量の化学成分をテープに写し取り、これを専用の装置に入れて赤外線で組成を分析するもののようだ。指紋が含むマイクログラムオーダーの化学物質が分析可能とのこと。これで、性別や嗜好がどうしてわかるのかというと、別にDNA鑑定のような高級なことをするわけではなく、
For instance, preliminary results could identify males based on the greater amounts of urea in their fingerprints - urea being the key ingredient of urine. The complex brew of organic chemicals within prints might also shed light on the age and race of people, and hold traces of items people came into contact with, such as gunpowder, smoke, drugs, explosives, or biological or chemical weapons.

Even a person's diet might be determined from fingerprints, as vegetarians may have different amino acid content than others, Kazarian said.

"More volunteers need to be tested for statistical information on fingerprints with regard to race, sex and so on, but we believe this will be a powerful tool," he told

男性の指紋からは尿素が多く見つかるし(排尿後に手を洗わないため?)、日常生活を反映する付着物(火薬、タバコ、薬物、爆発物など)が見つかることもあるといった比較的単純なものらしい。なるほど、その意味では、ある種の職業なども特定できる可能性もあるだろうし、指紋の持ち主の特定に役立つ情報がいろいろと得られる可能性もありそうだ。また、指紋に含まれるアミノ酸の成分から、食生活(ベジタリアンとか)などもわかる可能性があるとのこと。他にも、人種もわかる可能性があると書かれているけど、人種によって分泌される成分などに違いが出てくるものなのだろうか?

ところで、指紋に関しては、指紋鑑定@法科学鑑定研究所が詳しい。現在の指紋採取方法や指紋鑑定方法の概要がわかりやすく説明されている。読んで驚いたのが指紋のつくわけ。てっきり、指先にもいわゆる油分が汗と共に分泌されていて、これが指紋として付着するんだと思っていたのだが、どうやらこれは間違いのようだ。指先の皮膚から分泌しているのは純粋な汗だけで、実は指紋として付着・残留する油分は、体表の他の部分(の毛穴)から分泌される脂肪分を指先で無意識に触ることで付着したものなのだそうだ。

人の手は、顔や首、腕や足といった毛の生えている皮膚にある脂肪分を触ることによって、指先に脂肪が運ばれてくるのです。

では、なぜ人は、毛の生えている皮膚を触るのか・・・・

人を含む手を使える動物は、体の異常を手で体を触り確認していると言われています。犬や猫が舐めて毛繕いするように人は手で体を触り異常がないか確認するらしいです。つまり、人は動物的本能の手の行動によって、手の平に脂肪分が運ばれてきます。(改行位置変更)

でも、洗剤や有機溶剤の使用による手荒れの話などでは、実際に手の油分が失われるのが問題になるわけだし、実体験上も手はかなりの油分で覆われているという印象があるのだが、と思って調べてみると皮膚科のページでも、
皮膚の表面には「皮脂」とよばれる脂肪分の薄い層があって、皮膚を外界の刺激から保護するバリアーとなっています。ところが、手のひらには、皮脂を出す「皮脂腺」が全くありません。手は、構造的に皮脂が不足しやすい場所なのです。
とあり、どうやら手の油分はやっぱり他の場所からやってくるものらしい。。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2007/07/20

259回目の献血

前回6/29以来、21日ぶり。前回同様に相模大野献血ルームにて。

今回は、血小板成分献血。検査の数値を見ながら、「どうしても血小板が欲しいんだけど、、」とつぶやきながら、わざわざ検査結果を成分採血装置(テルモのテルシスS)に入力して、何とか血小板が取れそうなことを確認して、血小板成分献血となった。こんな手続きを踏んだのは初めてだが、採血装置に検査結果を入れると、必要な成分を取るのに必要な採血量や時間が出てくるようだ。

今回も、いつもと同じで、検査は右腕、献血は左腕。おみやげは、お米、歯みがきセット、折り畳み傘、アルミの飲料ボトルに加え、今回から新しい献血Tシャツが加わった。

実は、今月上旬にかながわ献血メールクラブから、「好評のオリジナルTシャツが献血記念品にラインナップ」というお知らせが来ていたのだが、従来のものが、胸にイラストが描かれていたのに対し、今年のものは前面は無地で、背中にイラストが入っている。色は、白・紺・赤・グレーの4色。生地も従来のものとはちょっと異なっており、涼しそうな感じだ。写真ではわかりにくいかもしれないが、今回もらってきたのは、グレー。

20070720tshirt

前々回のもの前回のものと比べると、波がどんどん大きくなっているのだが、この先いったいどうなるのだろう?

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2007/07/19

琵琶湖の溶存酸素濃度を電気分解で上昇させる

日経Ecolomyで見つけたニュース(7/18)から。(7/18)深層の酸素不足を解消――琵琶湖、水を電気分解

 琵琶湖の深い場所の水が酸素不足の状態であるのを解決しようと、水を電気分解して酸素を作り水に溶け込ませる実験を、滋賀県琵琶湖環境科学研究センターと信州大などが18日、琵琶湖南部で始めた。

 電気分解でできた水素はエネルギーとして利用する“一石二鳥”の計画だ。

 同センターの熊谷道夫研究情報統括員らは、水深3―4メートルの湖底でしゅんせつのために開けられた深さ約10メートルのくぼ地に水槽を沈めて実験。湖上の船に設置した太陽電池で発生した電力を使い、水槽の中に取り付けた電極に電気を流した。

 すると水槽内の水の酸素濃度は、1リットル当たり0.4ミリグラムから1時間半後に約6ミリグラムに上昇した。熊谷さんは「生物が生きるには十分な濃度だ。今回は水素を取り出さないが、今後水素の使い方を検討し、生態系への影響を調査したい」と話している。

 琵琶湖では、冬に表層の水が冷やされて底に沈み、深い場所に酸素が供給されると考えられていたが、最近は深い場所が酸素不足になっており、地球温暖化の影響とみられる。

太陽電池で発電した電力を使って、琵琶湖の水を直接電気分解し、発生した酸素で溶存酸素を増やしてやろうということらしい。何だか、アイデア段階で既に無理がありそうな気もしないではないが、まあ動き出したら自然エネルギーだけで琵琶湖が浄化され、しかも水素を取り出せるから、良いことずくめということらしい。うーむ。

滋賀県琵琶湖環境科学研究センターでは、残念ながらこの画期的?な実験のことは見つけられなかったのだが、basswave-newsによると、この計画は2004年から進めているものらしく、生態系への悪影響のことも考慮しながら、地道に進めてきているようだ。

今回の実験では、溶存酸素量が6mg/Lまで上昇したとのことだが、純水の最大溶存酸素濃度は、ここによると、20℃、1気圧で8.84mg/Lとのことだから、過飽和までにはなっていないようだ。ところで、同時に生成する水素はどうしたんだろう? 琵琶湖の中に酸素水水素水の領域を同時に作って、魚や植物への影響を調べるというのも面白そうだけど。。

ところで、通常、純水の場合にはそのまま電気分解はできないので、何らかの電解質を加えるわけだが、そのため電気分解によって酸素ガスと水素ガス以外にも、酸やアルカリが副生するのだが、今回の場合どうしているんだろう? もしかして、琵琶湖の水はいろんな不純物が溶けていて、特に電解質を加えなくても電解できるかもしれないが、それにしても、何らかの副生する酸やアルカリがあるはずだが。。 (もしかして陰極側と陽極側を混ぜればOK?)

一方、太陽電池で発電した電力で水を電気分解して水素を作るという技術の効率を調べていたら、2007年のセンター試験問題の理科総合Aにどんぴしゃりの問題が載っていた。これによると、0.25gの水の電気分解に必要な電力が1Whとのこと。

例えば、シャープの住宅用太陽電池の場合、1165×900mmで約160Wの発電能力だから、これ一枚で、1時間に最大40gの水を電気分解できて、発生する酸素は標準状態で25リットル程度。25リットルというと、何となく結構な量にも思えるが、この大きさのパネルを使っても、たった40gの水しか分解できないわけだ。

一方、こんな水槽用のエアーポンプを使うと、消費電力30Wで最大30L/min程度の送風能力とのことだから、5台並べると、1時間に9000リットルの空気が送り込めることになり、酸素換算でも1900リットル程度となる。これは、電気分解の場合の75倍だ。。 まあ、深い湖底まで送り込もうとすると、このポンプでは無理かもしれないけど、それでも相当な量となりそうだ。

琵琶湖の溶存酸素量を増やすのに、何も純酸素が必要なわけでなく空気でもいいのだから、わざわざ水を電気分解して酸素を作って、それを湖水に溶存させるってのはどうみても効率が悪そうだ。。 正当な比較のためには、実際に空気を送り込んだ場合に、どの程度の溶存酸素濃度まで上昇するかの試験も必要だけど、副生する水素(上の例で言えば、標準状態で約50リットル)の有効活用を見込んだとしても、果たしてどうなるだろうか?

| | コメント (2) | トラックバック (1)

2007/07/17

数学的思考:自動掃除機の場合

ITproに掲載されたコラム「岩井慶一郎のIT的数学入門」(7/17)から。どこにでも転がっている「数学的視点」

数学的視点の例1:自動掃除機

 最近,自動的に床に掃除機をかけてくれる掃除機が売られています。日本で手に入りやすいのは,壁に当たると別の方向に向きを変えて進んでいくというものです。壁に当たるのは嫌という向きには,超音波で壁を検知して壁に当たりそうになると向きを変えるというものもあります(この掃除機は,残念ながら現在日本では販売中止になってしまいました)。

 さて,ここでこの掃除機を開発する立場になったと仮定しましょう。当然のことながら,掃除機には何らかの「進み方」のロジックが組み込まれていて,できるだけ効率よく床を掃除できるようにプログラムされているべきでしょう。では自分がSEやプログラマだったとして,どういうロジックを組むのがいいのでしょうか?

* 「反射」させる(入射角と反射角は等しくなるようにする)(図1)
* 当たったところから90度回す(図2)
* 当たったところから,適当に(ランダムに)回す(図3)

Cleaner

 こんなことはどうでもいいように思う方もいらっしゃるかもしれませんが,いかに短時間で効率よく掃除をするかは全自動掃除機の最も基本的な性能の1つで,競合他社が多数いる場合,このロジックが致命的になる可能性さえあります。そしてこのロジックはまさに「数学」そのものです。

なかなか興味深い問題だけど、数学的にエレガントに解くにはどうするのだろう? 力技なら、簡単なプログラムを書いてシミュレーションしてみるというのがありそうだけど、最近あんまりプログラムを書いていないので面倒だな。。

*7/19追記:エクセルのマクロでプログラムを書いて、シミュレーションをしてみました。下のコメント欄にエクセルファイルを置いてありますので、よろしければお試しください。

とりあえず、部屋は任意の長方形と仮定して考えてみよう。 「反射」する場合には、掃除機の描く軌跡は、2種類の平行線だけで表されることになりそうだ。うまくスタートさせると、実に無駄なく部屋を掃除してくれることもありそうだけど、下手をすると、同じ平行四辺形上をグルグル回り続け、部屋全体をカバーできなくなってしまうことがありそうだ。

直角に向きを変える場合には、掃除機の軌跡は互いに直交する平行線の組で表されることになるが、この場合にも下手をすると同じ長方形上をグルグルと回り続けることになる。。 という意味からは、ランダムな方向に向きを変えるという3番目の戦略だけが、グルグル回りに陥らない方法と言えそうだな。

でも、これが正解なのだろうか? 上記3つの方針の中から選ぶのであれば、ランダムというのが正解なのかもしれないが、自動掃除機のロジックとしては、もっとスマートなものがあるのかもしれない。例えば、壁に当たったら90度ではなく、80度で向きを変えたらどうなる? もう少し考えてみよう。。 この連載は期待が持てるかな?

数学といえば、フジTVの木曜深夜に放送されている、「たけしのコマネチ大学数学科」は、予想以上に長続きしている。当初は結構面白く、一緒に考えながら見ていたのだが、段々難易度が上がり、放送と同時進行では解けないような問題になってしまって、ちょっと悲しいものがある。こちらのブログで過去の問題が見られる(最近の分が更新されていないのが残念)。

| | コメント (2) | トラックバック (0)

2007/07/12

落雷の危険があるときはイヤホンをはずせ

ITmedia Newsの記事(7/11)から。「音楽聞きながらジョギング」に注意、ヘッドフォンに落雷の可能性

 ジョガーの皆さんにお役立ち情報だ。雷雨に巻き込まれそうだと思ったら、音楽プレーヤーを家に置いていったほうがいい。

 カナダのVancouver General Hospitalの医師らによると、2005年に、iPodを身につけていた37歳のジョガーが近くにあった木ともども雷に撃たれ、胸と首、顔にやけどを負った。その原因がヘッドフォンにあったと特定されたという。

 この患者の鼓膜は破裂し、中耳の小さな骨が幾つか脱臼していたと、医師らはNew England Journal of Medicineへの書簡に記している。

 また顎骨の4カ所が折れ、両方の顎関節が脱臼していた。おそらくは、電流であごの筋肉が激しく収縮したためだろうとエリック・ヘファーナン氏、ピーター・マンク博士、ラック・ルイス博士は書簡で述べている。

 イヤフォンの金属部分が電流を伝える手助けをし、この損傷を引き起こしたという。

 「iPodなどのデバイスを使うことで落雷の可能性は高まるということはないかもしれないが、このケースでは、汗と金属イヤフォンの組み合わせが電流を患者の頭部に通した」と医師らは説明する。

 ヘファーナン氏は、危険があるのはiPodのヘッドフォンだけではないとしている。「どんな種類のヘッドフォンにもこうしたことが起きる可能性があると思う」

落雷の危険があるようなとき(恐らくは激しい雨の中)にも、そのままジョギングをするってのは、まあiPodを聞くかどうかに係わらず十分に危険だろう、と思わないでもないが、少なくともこのジョガーの場合、もしもiPodのイヤホンをはずしていれば、こんなにひどい被害は受けずに済んでいたということらしい。

この記事では落雷を受けた状況がやや不明確なのだが、New Scientistによると、

Most people who are struck by lightning are not hit directly, but get a "side flash" when the electric discharge jumps from the object that was hit.


In 2006, the 37-year-old Vancouver man was out jogging when he received just such a side flash from a tree that had been struck. He was thrown over 2 metres, as a result of the electricity making his muscles contract.

ということで、走っている時に、近くの木に落雷があり、そこから「サイドフラッシュ」(側撃雷:参考)と呼ばれる現象により、この木から被害者に電気がジャンプしてきたということのようだ。
However, people are surprisingly resistant to the electricity itself, because the skin has a high resistance. Normally the current passes over our bodies in a "flashover" - unless a conductor, such as excess sweat or metal, directs the flow of electricity into our bodies.

Two long, thin burn marks extended up his chest and the sides of his face, and there were "“substantial" burns inside his ears. The sudden expansion of gases in his ears due to the hot earphones ruptured his eardrums, and he was deafened.

通常は、人体表面は電気抵抗が大きく、雷の電流は「フラッシュオーバー」と呼ばれる現象により、皮膚の表面を流れてくれるため、内臓には大きな損傷を与えないようだ。しかし、今回の場合にはiPod、イヤホンケーブル、およびイヤホンが電気の通り道となり、最終的には大電流を耳の中に導くことになってしまった結果、耳の内部が高温・高圧になり鼓膜が破れたようだ。幸運にも脳にはさして影響がなかったようだが、よくもその程度の被害で済んだとも言えそうだ。。

なかなか怖い現象だが、調べてみるとここの記事によると、丁度1年前にも同じようなニュースがあったようで、iPodだけでなく、携帯電話で会話中に落雷を受けて深刻な障害を受けた例も紹介されている。

ウィキペディアの記事では、

人体の電気が通るのは主に人体内部であり、表面に少量の金属があっても通りやすさに影響は無い。そもそも、物体の伝導性の違いは被雷する確率にまったく影響を与えない。前述の通り、高さのほうが重要である(ただし背の高低程度では大きな差異にはならない)。そのため、体から金属類をはずすことに気を払うのではなく、一刻も早く安全な場所に避難することが重要である。また、金属製品を身につけている場合は、落雷時に人体より電気の流れやすい金属周辺の皮膚に軽度のやけどは負うが、雷の電流の多くが金属に流れる分、人体を流れる電流が減り、むしろ生存確率は上がることもある。
とあるが、少なくとも、「イヤホンやヘッドホンは頭部に電流を導くことになるため、被害を大きくする可能性が高く、速やかにはずすことが望ましい。」と追加すべきだろう。そのうち、これらの機器の取説にも同様の注意事項が記載されることになるのではないだろうか。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2007/07/10

「トランス・サイエンスの時代」

いわゆるSTS(Science and Technology Studies; Science, Technology and Society; 科学技術社会論)については、最近いろいろな本が出ており、ちょこちょこと目を通している。先日の理系白書で私の意見を述べている石黒武彦さんが書かれた、岩波科学ライブラリー 「科学の社会化シンドローム」(bk1amazon)は、アカデミックなサイエンスの抱える問題(ミスコンダクト、ピアレビュー、アウトリーチ、競争、人材)が中心で、科学技術と社会の関わりを考える上では、やや狙いの異なる内容だった。

一方、少し前に手に入れた本だが、藤垣裕子さんが編集されたSTSのテキスト「科学技術社会論の技法」(bk1amazon)は、多数の事例(水俣病、イタイイタイ病、もんじゅ訴訟、薬害エイズ問題、BSE問題、遺伝子組換え食品、医療廃棄物、地球温暖化、Winny事件)を題材に、それぞれの問題を文系・理系の専門家が担当して科学技術と社会との接点で起こる様々な問題をどう解釈し、今後の科学技術と社会との関係はどうあるべきか、を考える上でなかなか有用で読み応えのある本であった。

今回の「トランス・サイエンスの時代」の著者の小林傳司さんも「科学技術社会論の技法」で、もんじゅ訴訟に関する章を担当しており、その考え方や説明の仕方もわかりやすく、とても興味深かったこともあり、今回の本も大きな期待を持って読んでみた。

NTT出版 ライブラリー レゾナント 035
 トランス・サイエンスの時代 -科学技術と社会をつなぐ-
  小林 傳司 著 bk1amazon

期待にたがわず、非常に面白い本であった。本書のタイトルである「トランス・サイエンス」とは、「科学によって問うことはできるが、科学によって答えることのできない問題群からなる領域」と定義されているが、1970年代に物理学者のワインバーグが提唱した概念とのこと。本書では、例えば原子力発電所の安全装置がすべて同時に故障するような事態が起こる確率が非常に低いことは従来の科学で計算して示すことができるが、その施設を十分に安全であるとして受け入れて良いのかどうかという問いは、従来の科学だけでは答えの出せない問題であり、このようなものをトランス・サイエンスの問題としている。

本書で具体的に議論しているトランス・サイエンスの問題は、BSE問題、もんじゅ訴訟問題、遺伝子組換え植物問題などである。このうち、BSE問題と遺伝子組換え植物問題については、最近日本で行われた「コンセンサス会議」の実態を通して、科学技術と社会との関係についての実験的で先進的な試みを紹介し、この手の問題に今後どのように向き合っていくべきかを考察している。

著者は、一般社会(市民)がBSE問題や遺伝子組換え問題などで示す拒絶反応について、科学者(推進)側は一般市民の側の知識の欠如が問題であり、適切な教育と啓蒙により正しい理解が得られれば、必ずや誤解は解けて問題は解決するものと考えがちだが、トランス・サイエンスの問題では必ずしもそうではないと指摘する。つまり、市民は科学者が思っているほど無知ではないし、十分に状況を理解した上で、なおかつ遺伝子組換え食品を拒絶するような立場を取ることもあり得るとしている。

これは、市民が必ずしもゼロリスクのような理不尽な状態を求めているのではなく、遺伝子組換え食品とか生殖医療などの先端技術に対し、その技術そのものの持つプラス面およびマイナス面を理解した上で、科学技術がそこまで踏み込むことの是非などの、価値観や倫理感、あるいは人生観に関わるような判断を問題にしているのだ、と述べている。

実際、本書で紹介されているコンセンサス会議では、市民の側も想像以上にハイレベルで熱い議論を繰り広げているのだが、この会議の参加者は積極的に応募してきた意識の高い人たちなので、これが一般的な市民の代表的な姿とは思えない。また、それぞれの市民がこれらの先端技術の背景や詳細など、問題を理解するのに必要な知識を全て獲得できるわけではないだろうと思う。逆に、科学技術の専門家がみんな倫理感に欠け、歪んだ価値観を持っているわけでもなく、科学技術の専門家と一般市民が異なる結論に到達すると決まったものでもないだろうに、という疑問も感じる。

本書では、従来のサイエンス・コミュニケーションは科学者側から一般市民側への教育といった意味合いの強い、一方向のものが中心だったが、これからは相互に対話をし、学びあう双方向のコミュニケーションが大切であると主張している。まあ、そうなのだろうけど、対話の前提としての教育の重要性はもっと強調されても良いような気がする。何故、専門家と一般市民が異なる結論に到達するのかを考えてみると、決して立場や利害の差だけではなく、知識や理解の差にも原因があるのも確かだろうと思ってしまうのだが、やっぱり僕も「科学の共和国」の住民なのだろうか?

それでも、科学の専門家が「科学の共和国」の中だけで議論していても問題解決には不十分であり、より広い世界である「トランス・サイエンスの共和国」で一般市民と共に、より広い視点で議論することが大切だ、という主張は正しいだろう思う。もっとも、本書で紹介されているコンセンサス会議でも、結局利害や主張の対立は最後まで埋まらなかったわけで、「トランス・サイエンスの共和国」だからといって容易に問題解決ができるというわけではないのだが。。

本書の最後の部分がとても印象的なので、引用する。

われわれはいかに科学技術に投資をし、その研究を進めようとも、システムの巨大さに起因する不確実性からのがれることはできないであろう。世界は確率論的に描写され、「ゼロリスクはない」と専門家は言い続けるであろう。しかしこれは言い換えれば、いつでも災厄が起こり得るということである。

であるとすれば、奇妙な言い方ではあるが、「納得のいく」災厄であってほしい。トランス・サイエンス的状況における意思決定は、専門家の知の限界を見極め、トランス・サイエンスの共和国という拡大されたピアによって下す以外にない。もちろん、失敗は避けたい。しかし、究極のところ、われわれにできることは、合理的な失敗の方法の模索に尽きるかもしれないのである。失敗するとすれば、納得して失敗したいではないか。トランス・サイエンスの時代、科学技術を使いこなすにはこれくらいの覚悟がいるようである。

科学技術のあり方を議論してきて、最後は悟りの世界にたどり着いてしまうというのも、ため息ものなのだが、でも結局はそういうことだろうな、という妙な納得感もある。。

| | コメント (2) | トラックバック (1)

2007/07/08

ココログ42か月

ココログを始めて3年と6か月が経過。1か月当たりのカウンターの伸びは前月同様の21000程度と順調。

 1か月目:900     2か月目:4500    3か月目:11700    4か月目:19000
 5か月目:32300   6か月目:43500   7か月目:54500    8か月目:72000
 9か月目:87700   10か月目:105400  11か月目:125400  12か月目:140600
13か月目:163000  14か月目:179300  15か月目:194700  16か月目:205300
17か月目:216800  18か月目:231700  19か月目:251100  20か月目:276400
21か月目:301200  22か月目:326400  23か月目:351400  24か月目:372400
25か月目:398100  26か月目:419300  27か月目:436100  28か月目:452700
29か月目:474500  30か月目:492100  31か月目:510100  32か月目:529800
33か月目:548600  34か月目:565300  35か月目:583300  36か月目:598200
37か月目:619200  38か月目:640000  39か月目:657000  40か月目:673500
41か月目:694300  42か月目:715400

この1か月のアクセス解析結果は以下の通り。

(1)リンク元
 1位 http://www.google.co.jp 全体の25%(前回1位)
 2位 bookmark 全体の20%(前回2位)
 3位 http://www.google.com 全体の6%(前回3位)
 4位 http://tftf-sawaki.cocolog-nifty.com 全体の2%(前回4位)
 5位 http://search.goo.ne.jp 全体の1%(前回5位)

引き続き、Yahoo!サーチからのアクセスはほとんど皆無のまま。その他のアクセス元もほとんど前月と同様で、大きな変化は見られなかった。


(2)検索キーワード
 1位 ナナツバコツブムシ(初登場)
 2位 酸素水(前回1位)
 3位 乳酸(前回2位)
 4位 注射針(前回5位)
 5位 効果(前回4位)
 6位 ETBE(前回3位)
 7位 自転車(前回23位)
 8位 発光ダイオード(前回16位)
 9位 改造(前回13位)
10位 ハーモニックドライブ(前回11位)
11位 天気予報(前回20位)
12位 人工降雨(前回49位)
13位 薬指(前回6位)
14位 フラーレン(前回12位)
15位 献血(前回24位)

トップとなった「ナナツバコツブムシ」には驚いた。この虫の侵食で消えてしまいそうな島を書いた直後から、よくわからないけど似たようなサイトからのトラックバックが連続でやってきて、何と32件にも到達したんだけど、これって何だったんだろう? 何か地雷を踏んだのか? と思ったけど、よくわからない。。

それにしても、最近はキーワードを拾って自動的に送って来ていると思われるトラックバックが多い。本当は邪魔なので問答無用に消してしまおうかと思ったのだけど、考えてみると、根拠がないのではないか?と批判的に書いた記事に対して、正にその批判されたものに関連した商品の販促サイトからトラックバックが来たりするのも逆説的で面白いということで、明らかなスパムやエロ系以外はとりあえず放置しているので、目ざわりかと思うけどご了承願いたい。

| | コメント (0) | トラックバック (1)

2007/07/05

スカンジア安定化ジルコニアを使った高性能NOxセンサ

産総研のプレスリリース(7/4)から。高感度高速応答のNOxセンサを開発

 独立行政法人 産業技術総合研究所【理事長 吉川 弘之】(以下「産総研」という)先進製造プロセス研究部門【研究部門長 三留 秀人】機能モジュール化研究グループ【研究グループ長 淡野 正信】 濱本 孝一 産総研特別研究員は、高感度高速応答のNOxセンサを開発した。

 従来のNOxセンサには、エンジン排ガス中等の過酷環境では耐久性・耐熱性等の問題があり、その解決策としてセラミックスの固体電解質(酸素イオン伝導体)を用いたセンサが開発されている。しかし、センサ構造が複雑で多段階の電気化学反応を組み合わせてNOx濃度を測定するため、高速応答は本質的に困難であり、自動車における排ガス浄化と燃費向上を進める上で課題となっていた。

 開発した新型のNOxセンサは、NOxを検知する電極表面のナノ構造を精緻に制御することで、極めて高いNOx分子選択性を発現させたものである。電気化学セル構造の改良によって、直接検知型のNOx分子センシングの応答速度が従来よりも約5倍向上し、かつNOx分子に対する検出感度が約2倍向上した。

 高感度センサを用いたエンジン燃焼の制御によって、特にディーゼル車等のNOx排出量を低減し、燃費を向上させることが可能となり、大気環境保全および二酸化炭素の排出削減に貢献することが期待される。

近年、ガソリンエンジンでもディーゼルエンジンでもNOxの排出低減が課題となっている割には、確かにNOxセンサが搭載されたという話はあまり聞いたことがない。これは、NOxセンサはなくても良いということではなく、まだ実用レベルのNOxセンサがないためということのようだ。

調べてみると、車載型NOxセンサの実用化とその利用技術に関する研究という環境省の費用で行った研究報告が見つかった。ここで紹介されている従来型のNOxセンサは、ジルコニア製の酸素ポンプを3つ使用したかなり複雑な構造をしている。酸素を汲み出して低酸素分圧とした部屋の中でNOxを窒素と酸素に分解し、生成した酸素を検出するという原理のようだ。このような複雑な構造だと応答性に難がありそうだが、この報告では、実用レベルの応答性(数百ms以下)と精度(5%程度)を有するとある。ただし、実際の排ガス中に微量に存在するNH3により干渉されるという問題もあるようだ。

実は、この手のNOxセンサは日本ガイシ日本特殊陶業などが製造販売しているようだから、一部の車には既に搭載されているのかもしれない。ただ、その割には自動車メーカーの技術解説などのページが引っ掛かって来ないので、やはりまだ実用上は問題があるというレベルなのかもしれない。

一方、今回の産総研の開発したNOxセンサは、同じように酸素イオン伝導性セラミックスを使用しているが、原理は異なる。どうやら、酸素が高濃度で存在している環境下でもNOxを選択的に分解できる電気化学リアクタを応用したもので、直接NOx濃度を検出する構造となっているようだ。電極の構造を最適化することで応答速度や感度が実用レベルに到達したとのことだが、ここに掲載されているグラフは、あくまでも電極構造最適化前後の比較であって、他の従来型のNOxセンサとの比較ではないので、要注意というところだろう。このリリースでは随分高性能のように書かれているが、検出感度や応答速度のレベルがまだまだ実用領域とはかけ離れているような気もする。。

それにしても、センサの素材として、スカンジウム安定化ジルコニアセラミックスを採用したとのことだが、何故スカンジウムなのだろう? スカンジウムについては、以前このブログでも温泉からスカンジウムなんてエントリを書いたのだが、とにかく工業的に使用するには高価すぎる元素という印象がある。本当にスカンジウムを使うことで初めて実用化できたのだとすると興味深いのだが、その辺については特に触れられていない。

通常、安定化ジルコニアとしては、カルシア(酸化カルシウム:CaO)やイットリア(酸化イットリウム:Y2O3)で安定化したジルコニア(酸化ジルコニウム:ZrO2)が知られている。これは、純品のジルコニアが加熱・冷却時に体積変化を伴う相転移が起こり、バラバラに壊れてしまうため、そのままではセラミックスとして使用できないのだが、これにカルシアやイットリアなどを少量添加することで、相転移を起こさせなくしたもので、それぞれカルシア安定化ジルコニア(CSZ)とか、イットリア安定化ジルコニア(YSZ)と呼ばれる。今回のスカンジウムを添加したものも、正確にはスカンジア安定化ジルコニアと呼ぶべきだと思うのだが。。

試しに検索してみると、スカンジア安定化ジルコニア(ScSZ)は、燃料電池用として期待されたりしているようだ。この文献によると、スカンジア安定化ジルコニアはジルコニア系セラミックスの中で最も導電率が優れており、低温使用が期待される素材とのこと。

| | コメント (0) | トラックバック (1)

2007/07/02

「蚊 ウイルスの運び屋」

中西準子さんの雑感に、先月、「こんなに悲しいグラフがあるんだ-DDTについて考える-」という記事が掲載された。かなり無理やり要約すると、現在も、アフリカなどの貧しい国々に暮らす非常に多くの人たちがマラリアに感染し、死んでいっているという悲しい現実があり、マラリア対策がうまく行っていない原因として、媒介蚊に対して絶大な殺虫効果を示すDDTが環境汚染物質として使用を禁止されたことが大きく、結果として環境汚染のリスクを恐れたがために、非常に多くの人の命が失われてしまったのではないか、という主旨である。

このような話は、以前から何度か目にしていた話(参考:ウィキペディア)だし、タイミングよく食品安全情報blogでも、同じ主旨の記事が紹介されたこともあり、確かに今後はマラリア対策としてDDTを効果的に使用していく方向へ向かうべきだなと納得していたところがある。

ところが、群馬大学の中澤港さんのサイトの6/5のメモ6/13のメモで、これに対する反論が展開されているのを目にした。中西さんが見積もった数値の正しさなどはともかくとして、DDTの有効性を考えるためには、まずはマラリアとはどんな病気で、過去にどのような経緯があったのか、少しきちんとレビューしておくことが重要だろうと考え、中澤さんが紹介してくれた本書を読んでみた。

ヴィレッジブックス ソニー・マガジンズ(文庫)
 蚊 ウイルスの運び屋 -蚊と感染症の恐怖-
 アンドリュー・スピールマン&マイケル・ド・アントニオ 共著 bk1amazon

本書は、海外の科学系の読み物を翻訳した時にありがちな読みにくさがなく、ストーリーもわかりやすい。黄熱病(これは野口英世との関わりで有名な病気だけど、蚊が媒介するものだとは知らなかった)、日本脳炎、デング熱、西ナイルウイルスなどの話も出てくるのだが、大半はマラリアに関する人間と蚊との戦いの物語である。これを読むと、かつてマラリアが世界中で猛威を奮い、人類の歴史に多大な影響を与えてきた病気であることが、実によくわかる。というか、マラリアがそれだけ怖い病気であり、大きな影響力があるということを知らずに暮らせている今の我々がいかに幸せなのか、という気にさせられる。

ちなみに、国立感染症研究所の栗原毅さんによる日本語版監修者あとがきによると、以前は日本でも毎年20万人ものマラリア患者がいたとのこと。驚いて調べてみると、日本におけるマラリアによると、数十万人の話は出てこないが、戦前および終戦直後には数万人規模で患者が存在しており、やがて1955年頃にほぼ消滅したものの、最近は海外旅行者の影響もありやや増加傾向であるようだ。

マラリアというと、先進国ではほぼ制圧できているせいもあってか、今ではきちんと薬を使えば比較的容易に対処できる病気なのではないかと思ってしまうが、本書を読んでみると、敵はとてつもなくしぶとくて、DDTさえ使えば簡単に制圧できるというような生易しい相手ではないようだ。

確かにDDTはマラリア対策の特効薬として機能するのだが、それにはかなりの限定条件が付くようだ。非常に効果的に蚊を殺し、しかも極めて安価であることは間違いないし、環境への影響も(適切に使用すれば)比較的限定的と見られるのだが、残念ながら、短期間(5年程度)でDDT耐性の蚊が発生し、以降はDDTの効果は期待できなくなるというのが最大の問題点のようだ。

よく例にあげられるスリランカでも、マラリアの撲滅に失敗したのは、DDT禁止のためというよりは、むしろDDT耐性の蚊の出現や、蚊を殲滅するための掃討作戦の不備などが原因であったと書かれている。悪いことに、人が獲得するマラリアに対する免疫は短期間に失われるため、マラリア対策が中途半端に終わると、その後の流行が以前より悲惨なことになるという問題もあるようだ。

本書も、DDTの有効性を否定しているわけではないし、環境汚染のリスクを理由にDDTを禁止すべきという主張をしているわけでもない。しかし、逆にDDTに頼るだけではマラリアや他の蚊が媒介する感染症を撲滅することは不可能であり、より多面的な対策が必要であることが様々な観点から述べられている。結局のところ、その多面的で総合的な対策のひとつとして、DDT耐性の蚊の出現に気を付けながら、DDTが有効な局面できちんと管理して使用するべきであるということになるようだ。

本書を読んで感じたのは、DDTだけに依存した蚊との戦いは、まるでアメリカ軍にとってのベトナム戦争やイラクでの対テロ戦争みたいなものだ、ということである。力づくで強引に相手を屈服させようとしても、しぶとい相手から手痛い反撃を食らい、極めて不毛な戦いとなるという点に共通するものを感じる。そもそも、ある地域から病気を媒介する蚊を絶滅させようなんて戦略は、如何にも無理がありそうだ。例えば、日本でマラリアや日本脳炎を征服できたように、そして過去のアメリカやヨーロッパ、あるいはパナマ運河などで、人類が蚊との戦いに勝利してきた事実が示すように、適切な殺虫剤の使用の他にも、抗マラリア薬、蚊の発生源対策、さらには家屋への侵入対策など含めた、総合的な対策を地道に展開していくことが必要という認識が重要のようだ。

マラリアはホットなトピックのようで、今月の NATIONAL GEOGRAPHIC日本版の特集でも、世界で大流行 マラリアの脅威という読み応えのある記事が読める。本書でも、この記事でも、結局マラリアとの戦いで一番重要なことは、遠回りなようだけど、貧困からの脱出であるということが指摘されているし、実際の対策は、DDTの使用も含め、総合的な観点から進められているようだ。

ここのところ、環境ホルモンやダイオキシンなどに代表される化学物質が、実態以上に悪者扱いされてきたことへの反動もあり、「マラリアが再流行しているのは(環境汚染物質として濡れ衣を着せられた)DDTを禁止したことが原因である」という主張は、何となく素直に流布しやすい傾向があるように思える。もちろん、DDTの環境や人体への影響を正しく見積もることは重要であり、それによって濡れ衣の部分は正していかなくてはならないのだけれど(参考:有機化学美術館)、逆にマラリア対策としてDDTの有効性を無邪気に信じてしまうのもまた非科学的であるということを肝に銘じなくてはならない。

その意味で、本書はとても大切なことを教えてくれたと思うし、この本を薦めてくれた中澤さんにも感謝したい。本書を読むと、これからの季節、蚊に刺されることがとっても怖くなるかもしれないけど、皆さんにも是非一読をお薦めしたい。

| | コメント (7) | トラックバック (3)

2007/07/01

2007年6月の天気予報傾向

東京地方の過去の天気予報 のデータ更新を終了。

今年の6月は、梅雨入りが遅れた上に、梅雨入り後も、雨はあまり降らず、晴れの日や蒸し暑い日が多かった印象がある。実際に1mm以上の降水を観測した日数は、2005年の6月は10日、2006年は8日、2007年は10日であり、今年の6月が特に雨が少ないということでもなさそうだ。一方、気温に関しては、最高気温が30℃を超えた真夏日が、2005年の6月は5日、2006年は2日であるのに対し、2007年は8日もあり、こちらは体感どおりに暑い日が多かったと言えそうだ。

予報精度の面では、6/15の最高気温を前日に22℃と予報したのにもかかわらず、実際には30.9℃まで上昇したという大はずれもあったり、かなり誤差が大きかったようだ。

ところで、6/29は今年初めての熱帯夜だったと思われるのだが、この日の夜のNHKのニュースでは、「このまま気温が25℃を下回らなければ今年最初の熱帯夜となります」という主旨の説明をしていたように聞こえた。熱帯夜は、気象庁の用語説明でも「夜間の最低気温が25度以上のこと」と説明されており、この定義からすると、6/29の場合も、遅くとも昼までには熱帯夜であることが確定すると思われるのだが。。

ところが、気象庁の作成した資料でも、例えば東京の真夏日、熱帯夜の日数などには、但し書き付きだけど「熱帯夜:日最低気温が25℃以上の日」という定義が記載されている。その日の最低気温は、必ずしも明け方に記録されるとは限らないので、定義の仕方が変わると色々と混乱が起こると思うのだが。。 (なお、夜間の定義も結構バラバラのような気がする。例えば、上に示したページでは日没から日の出まで、と書いているが、気象庁の予報用語説明では18時頃から翌日の午前6時頃までとあるし、このニュースだと、午前零時から午前9時までのように読める。)

ということで、果たして(NHK的には)6/30は熱帯夜なのか熱帯夜じゃないのか、興味のあるところだ。。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

« 2007年6月 | トップページ | 2007年8月 »