貴金属の使用量を半減させる新しい自動車触媒技術
Tech On! のニュース(7/30)から。日産、貴金属の使用量を半減するガソリン車用の新触媒を開発
日産自動車は、従来の約50%の貴金属の使用量で、排ガスを浄化するガソリン車用の新触媒を開発した。2008年度に発売する新型車より採用し、拡大を図る。貴金属の使用量を半減するということで、どんな技術なのか興味のあるところだが、「基材の間にしきり材を配置」って、一体どんな構造なんだ? 日産自動車のプレスリリースを見るとクルマの触媒には、排ガスを浄化するために、Pt(白金)、Rh(ロジウム)、Pd(パラジウム)などの貴金属を使っている。通常、アルミナ基材の上に貴金属を分散させて配置しているが、排ガスの高熱にさらされると貴金属同士が凝集し、表面積が小さくなり、浄化作用が低下してしまう。このため従来の触媒では、性能を維持するために、あらかじめ貴金属の使用量を増やしておく必要があった。
日産は、触媒中の構造をナノレベルで見直した。基材の上に乗った貴金属が凝集しないように、基材の間にしきり材を配置する。これにより貴金属の表面積の減少を防ぎ、従来の約50%の貴金属の使用量で、従来と同等のきれいな排気浄化性能が実現できた。なお、本技術の開発は、フランスRenault社と協力して取り組んだ。
貴金属は排出ガスの高熱にさらされると貴金属同士が凝集し、表面積が小さくなり、排出ガスをクリーンにする作用が低下してしまう。このため従来の触媒では、排出ガスをクリーンにする性能を維持するために、予め貴金属の使用量を増やしておく必要があった。ということで、模式図が載っているので、この技術がどんな狙いで行われているのかはわかるのだが、表現は新聞記事と全く同じで、技術の詳細は全く不明だ。日産は、触媒中の構造をナノレベルで見直し、貴金属をしきり材で細かく分離することにより、貴金属同士が凝集することを防ぐ世界初の技術を開発し、今回の新触媒に採用した。
このリリースが7/27に報じられたことで、ニューヨークでは白金価格が大暴落し、「日産ショック」と呼ばれるほどの事態となったとのこと。まあ、日産クラスの会社が正式なリリースで発表したのだから、影響も大きかったのだろう。それにしても、一体どんな技術なんだろう?
試しに特許電子図書館で検索して見つけたのが、たとえば特開2007-000697「排気ガス浄化触媒」。これは、
【請求項1】というもので、包接材としては、アルミナ、ジルコニア、チタニア、セリア、シリカなどを使用するようだ。触媒製造時に、有機溶媒中に貴金属原料塩溶液と担体材料を混合し、これに包接材原料溶液および包接材水和剤を加え、触媒前駆体を調製し、これをろ過、洗浄、乾燥、焼成するというもの。随分と簡単な調製方法だが、調製条件の精密な制御によって、貴金属粒子が包接材で包まれたような構造が得られるのだろう。
多孔性酸化物から形成される担体と、前記担体の細孔内部に担持された貴金属粒子と、前記貴金属粒子の凝集 を抑制する凝集抑制材と、を有することを特徴とする排ガス浄化触媒 。
また、特開2006-326554「排気ガス浄化用触媒、及びその製造方法」では、
【請求項1】というもので、肥大抑制材としては、Ce,Zr,Mn,Co,Fe,Ni,Sn,Cuなどの酸化物が使用され、担体微粒子上に貴金属微粒子を担持した後、その外表面上に肥大抑制材の金属を選択析出させ、焼成して酸化物とするようだ。
貴金属粒子と、該貴金属粒子を表面に担持した微粒子と、該微粒子を設けた基材とを備え、前記貴金属粒子の外表面の少なくとも一部を、貴金属粒子同士の凝集による肥大化を抑制する肥大抑制材で覆ったことを特徴とする排気ガス浄化用触媒 。
上記2件は、貴金属粒子同士が凝集、肥大化(シンタリング)することを、貴金属粒子表面に付加した包接材や肥大抑制材によって物理的に防ごうとするものだが、特開2007-029863「排気ガス浄化用触媒」は、これらとは少し異なり、
【請求項1】というもので、貴金属粒子を担体上に固定して動きを抑制しようというもののようだ。遷移金属酸化物としてはFe,Mn,Co,Ni,Sn,Ti,Y,Zn,Mg,Caの群から選択される元素の酸化物又は複合酸化物が使用され、これが貴金属粒子同士の接合を防止するいわゆる肥大抑制材となり、さらに基材中に添加する金属酸化物(セリウムの酸化物、またはセリウムとジルコニアの複合酸化物)が貴金属粒子と基材とを固定する役目(アンカー効果)を担うようだ。
貴金属粒子と、該貴金属粒子が担持された基材と、貴金属粒子の周囲のうち、貴金属粒子と基材との接触面以外の部位に配置された遷移金属酸化物粒子とを備え、貴金属粒子に対してアンカー効果を有する金属酸化物が前記基材中に含まれていることを特徴とする排気ガス浄化用触媒。
こうやって見ると、触媒表面を模式図的に表すと、確かにナノレベルで微構造を制御したもので、ナノテクノロジーと言えるのかもしれないが、実際の製造方法は、結局のところ従来からの湿式調製方法とほとんど同じであるとも言える。これを、ナノテクノロジーなどという流行の用語で宣伝するほどでもない従来型の技術(ローテク)と受け取るのか、それとも従来からの技術を使いながらナノレベルで構造を制御することを可能とした高度な技術(ハイテク)と捉えるのか? いずれにしても、このような技術で貴金属の使用量を半減できるのだとしたら、素晴らしい技術であることは確かなのだが。。
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