« 「蚊 ウイルスの運び屋」 | トップページ | ココログ42か月 »

2007/07/05

スカンジア安定化ジルコニアを使った高性能NOxセンサ

産総研のプレスリリース(7/4)から。高感度高速応答のNOxセンサを開発

 独立行政法人 産業技術総合研究所【理事長 吉川 弘之】(以下「産総研」という)先進製造プロセス研究部門【研究部門長 三留 秀人】機能モジュール化研究グループ【研究グループ長 淡野 正信】 濱本 孝一 産総研特別研究員は、高感度高速応答のNOxセンサを開発した。

 従来のNOxセンサには、エンジン排ガス中等の過酷環境では耐久性・耐熱性等の問題があり、その解決策としてセラミックスの固体電解質(酸素イオン伝導体)を用いたセンサが開発されている。しかし、センサ構造が複雑で多段階の電気化学反応を組み合わせてNOx濃度を測定するため、高速応答は本質的に困難であり、自動車における排ガス浄化と燃費向上を進める上で課題となっていた。

 開発した新型のNOxセンサは、NOxを検知する電極表面のナノ構造を精緻に制御することで、極めて高いNOx分子選択性を発現させたものである。電気化学セル構造の改良によって、直接検知型のNOx分子センシングの応答速度が従来よりも約5倍向上し、かつNOx分子に対する検出感度が約2倍向上した。

 高感度センサを用いたエンジン燃焼の制御によって、特にディーゼル車等のNOx排出量を低減し、燃費を向上させることが可能となり、大気環境保全および二酸化炭素の排出削減に貢献することが期待される。

近年、ガソリンエンジンでもディーゼルエンジンでもNOxの排出低減が課題となっている割には、確かにNOxセンサが搭載されたという話はあまり聞いたことがない。これは、NOxセンサはなくても良いということではなく、まだ実用レベルのNOxセンサがないためということのようだ。

調べてみると、車載型NOxセンサの実用化とその利用技術に関する研究という環境省の費用で行った研究報告が見つかった。ここで紹介されている従来型のNOxセンサは、ジルコニア製の酸素ポンプを3つ使用したかなり複雑な構造をしている。酸素を汲み出して低酸素分圧とした部屋の中でNOxを窒素と酸素に分解し、生成した酸素を検出するという原理のようだ。このような複雑な構造だと応答性に難がありそうだが、この報告では、実用レベルの応答性(数百ms以下)と精度(5%程度)を有するとある。ただし、実際の排ガス中に微量に存在するNH3により干渉されるという問題もあるようだ。

実は、この手のNOxセンサは日本ガイシ日本特殊陶業などが製造販売しているようだから、一部の車には既に搭載されているのかもしれない。ただ、その割には自動車メーカーの技術解説などのページが引っ掛かって来ないので、やはりまだ実用上は問題があるというレベルなのかもしれない。

一方、今回の産総研の開発したNOxセンサは、同じように酸素イオン伝導性セラミックスを使用しているが、原理は異なる。どうやら、酸素が高濃度で存在している環境下でもNOxを選択的に分解できる電気化学リアクタを応用したもので、直接NOx濃度を検出する構造となっているようだ。電極の構造を最適化することで応答速度や感度が実用レベルに到達したとのことだが、ここに掲載されているグラフは、あくまでも電極構造最適化前後の比較であって、他の従来型のNOxセンサとの比較ではないので、要注意というところだろう。このリリースでは随分高性能のように書かれているが、検出感度や応答速度のレベルがまだまだ実用領域とはかけ離れているような気もする。。

それにしても、センサの素材として、スカンジウム安定化ジルコニアセラミックスを採用したとのことだが、何故スカンジウムなのだろう? スカンジウムについては、以前このブログでも温泉からスカンジウムなんてエントリを書いたのだが、とにかく工業的に使用するには高価すぎる元素という印象がある。本当にスカンジウムを使うことで初めて実用化できたのだとすると興味深いのだが、その辺については特に触れられていない。

通常、安定化ジルコニアとしては、カルシア(酸化カルシウム:CaO)やイットリア(酸化イットリウム:Y2O3)で安定化したジルコニア(酸化ジルコニウム:ZrO2)が知られている。これは、純品のジルコニアが加熱・冷却時に体積変化を伴う相転移が起こり、バラバラに壊れてしまうため、そのままではセラミックスとして使用できないのだが、これにカルシアやイットリアなどを少量添加することで、相転移を起こさせなくしたもので、それぞれカルシア安定化ジルコニア(CSZ)とか、イットリア安定化ジルコニア(YSZ)と呼ばれる。今回のスカンジウムを添加したものも、正確にはスカンジア安定化ジルコニアと呼ぶべきだと思うのだが。。

試しに検索してみると、スカンジア安定化ジルコニア(ScSZ)は、燃料電池用として期待されたりしているようだ。この文献によると、スカンジア安定化ジルコニアはジルコニア系セラミックスの中で最も導電率が優れており、低温使用が期待される素材とのこと。

|

« 「蚊 ウイルスの運び屋」 | トップページ | ココログ42か月 »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: スカンジア安定化ジルコニアを使った高性能NOxセンサ:

» 日本ガイシの情報を集めました [日本ガイシ情報]
日本ガイシに興味がある人のサイトです。日本ガイシに必要な情報を流します。 [続きを読む]

受信: 2007/08/02 23:35

« 「蚊 ウイルスの運び屋」 | トップページ | ココログ42か月 »