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2007/08/20

窒化ホウ素が紫外線の光源となる

時事ドットコムで見つけたニュース(8/18)から。「白い黒鉛」高純度結晶、簡単に=深紫外線光源、記録装置に応用へ-物質機構

 昔から「白い黒鉛」と呼ばれ、化学物質を融解するるつぼなどの材料に使われてきた「六方晶窒化ホウ素」の高純度結晶を、通常の気圧下で簡単に合成する技術が開発された。物質・材料研究機構(茨城県つくば市)の研究チームが18日までに米科学誌サイエンスに発表した。
 波長が短い深紫外線の光源として、DVDなどの光ディスクの記録容量を飛躍的に高めたり、ダイオキシンなどの有害物質を分解したりするのに応用が期待される。
何だかわかったようなわからないようなニュースである。六方晶窒化ホウ素(hBN)が、昔から「白い黒鉛」と呼ばれるとは知らなかった。ゴム業界や製紙業界では、シリカ(ニ酸化ケイ素)のことを「ホワイトカーボン」と呼ぶようだが、それと比べても「白い黒鉛」というのは字面に違和感のある呼び方だな。。

さて、このニュース、探してみるとFujiSankei Business i(8/17)の簡便に深紫外線光源…六方晶窒化ホウ素、常圧合成はかなり詳しく、またポイントを突いているのでわかりやすい。ポイントは

 物質・材料研究機構(物材機構)の光材料センター光電機能グループは、波長350ナノ(1ナノは10億分の1)メートル以下の深紫外線領域で高輝度に発光する六方晶窒化ホウ素(hBN)を1気圧下で簡便に合成する技術を開発した。高密度光情報デバイスの記録や、有害物質の分解、殺菌用などへの応用が期待できる。

 深紫外線光源は、これまで窒化アルミニウム系での研究開発が進められている。研究グループは近年になって深紫外線発光が知られるようになったhBNに対し、特殊な高圧合成装置を必要としない合成法を発見した。

というところで、hBNは発光素子として有望な素材であり、その高純度結晶を常圧で簡単に合成する技術を見出したということのようだ。物質・材料研究機構(NIMS:新聞では物材機構と略すようだ)のリリースを見ると、hBNもいわゆるIII-V族窒化物半導体としてGaNやAlNと同じ仲間なのだが、今まで高純度結晶を作ることが難しく、ルツボなどの耐熱材料としてしか使われてこなかったとのこと。確かにウィキペディアでも、用途としては、固体潤滑剤、離型剤、ルツボ、化粧品などしか書かれていない。

ところが、実は高純度のhBNは深紫外線を高輝度で発光する、直接遷移型ワイドギャップ半導体として応用可能な材料であることが2004年に明らかとなったとのこと。紫外線の分類は色々な流儀があってややこしいのだが、たとえば近紫外線、遠紫外線、真空紫外線などと分類される。深紫外線というのは波長が300nm以下とか350nm以下の紫外線(近紫外線の一部、遠紫外線および真空紫外線の一部にまたがる)を指すようだ。(参考) 波長が200nm以下のものは、大気(酸素や窒素)で吸収されるため真空紫外線とも呼ばれているのだが、ここで高密度光情報デバイスなどへの応用が期待されているのは、空気中で使用可能で、できるだけ波長が短い光ということになり、狙い目の波長は200~300nmの範囲ということになる。

青色LEDで有名なGaN(窒化ガリウム)の発光波長は近紫外領域の365nmであるのに対し、AlN(窒化アルミニウム)は深紫外領域の210nm、そしてこのhBNの発光波長は215nmとのこと。高密度記録のニーズはかなり大きいので、今後はAlNとhBNによる激しい開発競争が見られるかもしれない。(実用化はAlNがかなり先行しているようだが)

それにしても、今回見出された新たな合成方法というのが、ニッケルなどの遷移金属系合金を溶媒として、ここから析出させる方法のようなのだが、窒化ホウ素がそんな金属に溶けるというのもちょっと意外だし、そこから高純度で析出するというのも面白い知見だ。しかも、サファイア基板を使って薄膜結晶を成長させることもできたということだ。

ところでリリースを見ると、今回観測したのは自由励起子発光というものらしい。自由励起子とは用語解説によると、「半導体中に励起された電子と正孔がクーロン相互作用により互いに束縛された状態のこと。自由励起子に関連する発光および吸収を調べることにより、物質固有の電子構造の情報を得ることができる。」とある。この研究では高品質の単結晶ができたわけでもないようだし、もちろんドーピングによってn型やp型の半導体結晶を作成したり、LEDを作ったわけでもない。ということで、実用化レベルの発光素子を作るまでにはまだまだハードルが色々とありそうだ。

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コメント

昔、BNるつぼを使ってとある無機化合物の合成をやっていたとき、合成された無機化合物のXRDを測定するとBNともCともとれる微小コンタミピークが出て騒動したことがあります。還元剤として使用したC由来なのか、るつぼ由来なのか。どう決着したかは忘れてしまいました。厳密には両者の構造はちょっと違うはずですが、精密XRD測定で面間隔の違いで判別したのだったか・・・
 白い黒鉛というのは確かにおかしいですね、白い石墨でもよかったのに。新聞がキャッチコピーしたのかサイエンス版でもそういっているのか? 原文はみていませんが、最近は論文の題名なんかもインパクトやキャッチな言葉を散りばめないと眼に止まらない時代なので、あえてそうしているのかもしれません。”白い恋人”がアジアからの観光客で人気があるように、「白い」という言葉が好きな人々もいるのかも。白いセラミックスということは絶縁体とイメージするのが普通だけれども、そうなるとあらたなカテゴリーができるかもしれませんね。例えば「半絶縁体」とか。

投稿: hidy | 2007/08/21 15:53

hidyさん、お久しぶりです。

「白い黒鉛」はNIMSのプレスリリース中に出て来ています。サイエンスの論文はhttp://www.sciencemag.org/cgi/content/abstract/317/5840/932">これですね。タイトルは、"Deep Ultraviolet Light-Emitting Hexagonal Boron Nitride Synthesized at Atmospheric Pressure" ですね。

投稿: tf2 | 2007/08/21 19:46

白色黒鉛はWhite graphiteの日本語訳ではないかと思います。
たしかに、黒い白鳥ぐらい違和感ありますよね。
大学の研究室のころ、同級生がh-BNからc-BNを高圧かけて
作ってました。結晶の大きさによると思うのですが、
確かに、黒鉛(鉛筆)のようにもろい鉱物でした。

投稿: crant | 2007/08/23 22:03

ありがとうございます。英語で white graphite と呼ばれるのは知りませんでした。確かに、http://en.wikipedia.org/wiki/Boron_nitride">英語版の wikipedia の boron nitrideの記述には、white graphite と呼ばれると書いてありますね。 英語なら違和感ないんだけど、日本語にしちゃうと変、ということですか。。 その意味では黒い白鳥も英語なら違和感ないですね。

投稿: tf2 | 2007/08/24 09:26

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