白色発光ダイオード照明の効率
日本化学会が発行している、化学と工業 2007年8月号が送られてきたので、見ていたら、「発光ダイオードによる次世代固体照明の実現」という記事が載っていた。著者は、日亜化学工業の坂東完治さん。たった3ページの総説記事だが、白色LED照明の現在の実力や今後の開発について、とても良くまとまっていて参考になる。
実は、このブログでは、2005年の9月に青色発光ダイオードの進歩とLED照明というエントリを書いたのだが、発光効率とかエネルギー変換効率の他の照明(白熱電球や蛍光灯)との比較に関して、やや混乱したままの状態になっており気になっていたので、最新の状況を整理しておきたい。
まず、白熱電球や蛍光灯などとの効率の比較だが、各種照明の光源効率の推移を示したグラフが載っている。
ここで、光源効率(lm/W)とは、光源の発する光量(全光束:ルーメン、目の視感度を考慮した値)を消費電力(ワット)で除した値とのこと。このグラフを見ると、白熱電球の光源効率が 20 lm/W 程度であるのに対し、蛍光灯が最大で 100 lm/W 程度。白色LEDは年々光源効率が急上昇しているが、2007年現在で 100 lm/W 程度のようだ。なお研究室レベルでは既に 150 lm/W まで来ており、高圧ナトリウムランプを超えて、白色光源の中でも最高レベルを実現しているとのこと。
一方、白色LEDについてのエネルギー変換の内訳も載っており、100 lm/W レベルの白色LED (青色GaN-LED + 黄色YAG蛍光体)の場合、
入力電力 100%に対し、可視光のエネルギーが 32%、熱損失が 68%
可視光 32%のうち、青色光が 10%、黄色蛍光が 22%
熱損失 68%のうち、光ロスが 16%、チップ内ロスが 38%、半導体抵抗等が 14%
とのこと。ちなみに、青色LEDの発光効率(発光再結合)は48%とのことであり、このうち、青色光および黄色光として外部に出なかった分(パッケージ内の吸収、反射、蛍光変換ロス)が光ロス16%に相当する。また、青色LEDで光に変換されなかった52%が、チップ内ロスと半導体ロスの合計に相当する。一方、他の照明と比較してみると、
白熱電球では入力エネルギーのうち、可視光になるのが約 10%
蛍光ランプは 入力エネルギーのうち、可視光になるのが約 25%
白色LEDでは 入力エネルギーのうち、可視光になるのが約 32%
とのこと。従って、白色LEDの場合、エネルギー変換効率としては白熱電球の3倍以上、蛍光ランプの約1.3倍ということになる。つまり、エネルギー効率や光源効率は既に蛍光ランプを超えているのは確かなようで、同じ明るさで照らすなら白色LEDが最も消費電力が小さく、発熱も小さくて効率的ということになる。
なお、LEDは効率は良いものの、一つ一つの出力が小さいという問題があったのだが、現時点では、定格出力が 1~10W 程度の大電力パッケージが作られているほか、LED 1個で 40W 電球並みの 400 lm を超す光束のものまで登場しているとのこと。
他にも、この総説記事では、各種白色光源のスペクトル分布の話や、光の質(演色性など)の改良などについても簡単に触れられている。
現実に、自動車用のヘッドランプにも採用(小糸製作所プレスリリース)されているし、照明用途の現状はこういった状況まで来ているようだ。
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コメント
結構前に聞いた話で、低出力では無限に近い寿命が高出力になると圧倒的に短くなるという問題があったように思いますが、変わったのでしょうか?
投稿: そる | 2007/08/10 00:31
寿命の問題については、この総説では特に触れられていないようですが、逆にいうと、現時点で大きな問題にはなっていないということではないでしょうか。
少し古い資料ですが、照明用の白色LEDの想定寿命がhttp://www.nichia.co.jp/jp/about_nichia/2002/2002_030401.html">10万時間ということですし、より高出力なものが自動車のヘッドライトにも実用化されてきているわけですから、実用レベルの寿命と出力や効率を両立しながら進歩しているということだと思います。
投稿: tf2 | 2007/08/10 23:24