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2007/12/14

薬害C型肝炎訴訟で全員救済するとなると

薬害C型肝炎訴訟の和解案について、とりあえず代表して asahi.comの記事(12/14)から。肝炎、未提訴者も救済 基金案軸に国が検討

 薬害C型肝炎訴訟和解協議で、国は14日、東京地裁判決が国・製薬企業の法的責任を認めた期間外に血液製剤を投与され、今後提訴する患者についても救済対象を広げる方向で検討に入った。提訴時期や血液製剤の投与時期にかかわらず患者を幅広く救済する「基金」をつくる案を軸に検討しているとみられる。大阪高裁が13日示した和解骨子案では救済範囲に含まれなかった患者への救済の意思を示すものといえる。

 和解案では、血液製剤フィブリノゲンは85年8月~88年6月、クリスマシンは84年1月以降について国・製薬会社の責任を認めた東京地裁判決に沿い、期間内に投与された原告には「和解金」、期間外に投与された原告には「訴訟追行費」を支払うとした。「期間外」の患者は今後提訴しても救済から外れることから、原告側は「被害者を線引きするものだ」として和解案を拒否。和解成立に向けた協議で最大の障壁となっている。

 このため国側は、和解案が示した「訴訟追行費」8億円を、薬害被害者をできるだけ幅広く救済するための「基金」と位置づけ、別の名目で金額を積み増す案などを軸に検討しているとみられる。

 今後提訴する患者数について原告側は「製剤投与を証明できるのは多くて1000人」と見立てる一方で、国側は「救済対象が際限なく広がる」と主張しており、溝は深い。大阪高裁は所見で「問題点の調整が必要になる」と述べ、新たな提訴者への対応が今後の焦点と位置づけていた。

 大阪高裁は「全員一律、一括の和解が望ましい」との所見を出して、国側の譲歩があれば和解案を修正する可能性に言及しており、20日までに修正案の提出を原告、被告に求めている。

各新聞の社説や、テレビのニュースなどを見ていても、大阪高裁の和解案が被害者を線引きするものであることに対して否定的なものばかりである。一方、なぜ大阪高裁の和解案が全員を救済するものでなかったのかについては、救済対象が際限なく広がる可能性があり、被告側が到底受け入れできないであろうことを理由にあげているようだ。

原告側の立場で考えると、同じ治療を受けたのに、その時期によって救済される人とされない人が出てくることは確かに理不尽だと思うし、心情的にはよく理解できる。でも逆に被告側の立場から考えると、もしも本当に法的責任がないのにも関わらず、金銭的な保証をしろと言われると、それはそれで問題ではないだろうか?

法的責任がないのにも関わらず賠償するということの特異性について、感情論以外の論理的な正当性が今ひとつ見えてこない。もちろん、期間に関わりなく法的な責任があるのだ、という立場を取るのであれば、それはそれで論理的に一貫性のある主張なのだが、そうするとその法的責任の範囲を論点として和解案の落としどころを争っているということなのかな?

もしも、今回の事件の場合には、例えば被告に悪意があったり従来の対応が不誠実であったりというよう特別な事情があるなどの理由で、懲罰的な意味を込めて、特例として法的責任のない期間についても賠償するべきだ、というのであれば、そのことを明確にして決着を目指すべきだろうと思う。そうではなく、一般論として、過失がなくとも際限のない賠償責任が生じるとするならば、医薬品を含めた技術開発全般にわたる企業側のリスクがあまりにも高くなりすぎるという副作用があるように思える。

つまり、一般論として考えたとき、新規医薬品の開発や新たな技術開発などでは、どう頑張っても未知の副作用や予期せぬ悪影響が将来発生するリスクが潜んでいる。もちろん、その時そのときの各種基準に則ることはもちろん、最新の知見や技術を総動員して最大限の努力をする必要があるけれど、それでもどうしてもリスクはゼロにはならないだろう。もしもその場合でも将来何らかの被害が発生したら、その被害に対して際限のない賠償をするべきであるというのであろうか?

ちなみに、ウィキペディアの製造物責任法には、通常の民法の損害賠償責任との比較を含めてこれに関連する記載があるので、参考になる。今回の薬害事件はこの法律の下で争っているわけではないのだろうけど、PL法でも「開発危険の抗弁」という免責事由が認められていることは考慮に値するのではないだろうか?

今のところ、新聞やテレビの論調を見ても、こういう視点から論じているものを見聞きしないし、企業側などからのこういった観点での意見表明なども見ないのだが、何か僕が勘違いしているのだろうか?

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