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2007/12/19

鉄系酸化物を使用した新規排ガス触媒

FujiSankei Business iのニュース(12/19)から。貴金属7割削減 新日鉄マテリアルズが新触媒開発

 新日鉄マテリアルズ(東京都千代田区)は18日、高騰が続くプラチナなどの貴金属使用量を約7割削減できる、排ガス浄化触媒の新材料を開発したと発表した。モータリゼーションが進む中国、インドなどBRICs諸国でも環境規制が始まる中、安価な触媒技術開発への期待は高い。新技術は新興市場の実質標準になる可能性もあり、ユーザーの自動二輪車メーカーは新材料のサンプル評価を進めている。

 ガソリンエンジン向け排ガス浄化用触媒は、マフラー内に仕込まれたハチの巣状編み目材(ハニカム)に塗布される。触媒成分であるプラチナ、パラジウム、ロジウムの3貴金属が、排ガス内の窒素酸化物など有害物質と反応し、二酸化炭素や水を無害化する。

 今回、同社が開発したのは、これら触媒成分を含んでハニカムに分散塗布する土台材。現在はアルミニウム系酸化剤が土台材に使用されているが、同社が開発した鉄系酸化物に置き換えたところ、プラチナを使用しなくても、従来と同等以上の排ガス浄化効果と耐久性、耐熱性を実現した。この結果、貴金属の使用量は約7割削減できた。

 仕組みは、鉄系酸化物の構造にある。貴金属を表面だけに含み、3層構成により各温度帯で酸素の取り込みをよくすることで、少ない貴金属で効率のよい反応を引き起こす。運転条件によっては、3貴金属の中で最も高価なロジウムも不要になる結果が得られた。この場合、貴金属は9割削減できる。(後略)

貴金属量を大幅に減らせるというこの技術はなかなか興味あるのだが、その前に記事の内容に突っ込んでおこう。

「ハチの巣状編み目材(ハニカム)」はやっぱり変だろう。ハニカムの実物を見たことがあれば、編み目材とは表現しないだろうと思う。どちらかというと網目材かなあ? ただし、自動車触媒に一般的に使われているセラミック製のハニカムの格子は、いわゆるハチの巣状の六角形ではなく、四角形をしている。

「窒素酸化物など有害物質と反応し、二酸化炭素や水を無害化する。」これは触媒だから有害物質と反応しちゃうと困るのではないかと思うが、それにしても二酸化炭素や水を無害化して何に変えてくれるのだろう? (ミクロに見るともちろん触媒自身も反応に関与しているのだが、ここではそれは置いておく) それに、窒素酸化物を無害化しても二酸化炭素はできないだろうし。まあちょっと長くなるけど正しくは「触媒成分である貴金属が、炭化水素、一酸化炭素および窒素酸化物などを空気中の酸素などと反応させて、二酸化炭素、水および窒素などの無害な成分に変える。」といったところだろうか。(正確さを担保するために「など」が多いのが悲しいところ)

他にも、白金をプラチナと呼んでいる点や、「土台材」という表現も気になるところ。土台材とは、いわゆる触媒担体の役目をするウォッシュコートのことだろうと思うのだが、土台材なんて用語は初めて聞いた気がする。

さて、肝心のこの新触媒だが、新日鉄マテリアルズのニュースリリースによると、

 新型触媒では、貴金属微粒子を分散する酸化物に、従来のアルミニウム系酸化物に代わり、鉄系酸化物を使用しています。鉄系酸化物にアルカリ土類金属を添加し、「ナノ複合結晶組織」とすることで、これまでにない高い触媒活性を得ることができました。

 「ナノ複合結晶組織」は、複数の異なる結晶相を組み合わせてナノレベルで複合されたものであり、この組織と貴金属微粒子との強い相互作用が起こり、貴金属微粒子の電子状態を変化させ、触媒活性が飛躍的に向上したものと考えられます。

 従来のアルミニウム系酸化物では、その性能を向上させるために、セリウムやランタンなどの希土類金属を添加されていますが、新型触媒では希土類金属を使用しなくても高い触媒活性が得られています。

 また、新型触媒は、幅広い温度の排ガス条件で安定した触媒活性が得られます。これは、「ナノ複合結晶組織」の酸素吸放出能が異なる複数結晶相の寄与と、鉄系酸化物の高い酸素吸蔵能力(酸化セリウム[ CeO2 ]の約100倍)によるものと考えております。

 更に、新型触媒は900℃に達する排ガスの高温にも耐えることも確認しています。この結果から、新触媒では、貴金属微粒子の凝集を抑え、優れた長期耐久性が期待できます。

ということで、アルカリ土類金属と鉄との複合酸化物が、触媒貴金属微粒子の高分散、貴金属の電子状態の変化、高い酸素吸蔵能力、および良好な熱安定性を実現させているようだ。 うーむ、自動車触媒といえば希土類添加アルミナを使うというのがいわばこれまでの業界の常識となっていると思うのだが、鉄酸化物系を使うという発想は一体どこから出てきたのだろうか、とても興味がある。

新日鉄マテリアルズの事業内容を見るとメタル担体というのがあるが、特許を検索してみても、前身の新日本製鐵時代から一貫して、メタルハニカムを使用した自動車触媒の性能向上の検討を行ってきているようだ。今回の新触媒そのものズバリの特許は見つからなかったのだが、類似した特許(特開2007-152269や特開2007-14831など)から類推すると、今回の発明はメタルハニカムに含まれる鉄と助触媒として添加したアルカリ土類金属酸化物とが反応して(偶然?)できた複合酸化物がヒントとなったものかもしれない。

なお、この解説によると、二輪車用の排ガス触媒には、主に振動などの機械的強度の面から、セラミック製ではなくメタルハニカムを採用しているようだ。

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