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2008/01/31

DNAを使って微粒子を3次元構造に配置

Reutersの記事(1/30)から。DNA does the work: Building new gold crystals

CHICAGO (Reuters) - Using DNA, the blueprint of life, U.S. researchers said they have made a three-dimensional structure from particles of gold in a development that could lead to a host of custom-designed materials.

The technique helps solve a basic problem in nanoscience: getting impossibly small particles to assemble themselves according to a predetermined design.

"We're using inspiration from life to create new forms of matter," said Chad Mirkin, director of Northwestern University's International Institute for Nanotechnology in Evanston, Illinois. "It's a real example of man over nature."

The idea takes advantage of the molecular biology of DNA, in which one strand of DNA forms a bond with a complementary strand to make what is called a base pair.

DNAの塩基対を利用して、ナノサイズの金の微粒子を3次元的に配置した構造を作ることに成功したというナノテクノロジーの最新技術の話。
The idea takes advantage of the molecular biology of DNA, in which one strand of DNA forms a bond with a complementary strand to make what is called a base pair.

Mirkin and colleagues simply design the specific genetic code using the four building blocks of DNA -- adenine, guanine, cytosine and thymine or A, G, C and T -- and attach the gold particles to those strands.

"Think of it as taking a set of particles, modifying them with short strands of DNA and making those particles like chemically specific Velcro," Mirkin said in a telephone interview.

"I can add complementary strands of DNA that bind with one another in preconceived and highly designed ways."

DNAを構成する塩基鎖はそれぞれ特定の塩基とペアを組む。金の微粒子に適当な長さの塩基鎖を取り付け、別の金粒子にはそれとペアを組む相補的な塩基鎖を取り付けておくと、これらを混ぜたときに、相補的な塩基鎖同士が結合するので、結果として金の微粒子同士を特定の距離で結合させることができる。この手法を3次元に拡張すると、人間が設計した通りの3次元構造を持つナノ粒子の構造物を作ることができるというアイデアのようだ。

ノースウエスタン大学のグループでは、実際にこの手法で実際に体心立方構造と面心立方構造を作ることができたとのこと。(参考:NewScientist.com) このニュースの元となったのは今週のNatureに掲載された異なるグループによる2つの研究。(DNA-programmable nanoparticle crystallization DNA-guided crystallization of colloidal nanoparticles) 同じ Nature の今週のHIGHLIGHTSの日本語要約(要ログイン)によると、

DNA中の塩基の対合によって有用な材料の結晶化を誘導できるのではないかという発想は、ナノテクノロジーにとって魅力的である。ナノ粒子に付着させた DNAが粒子の集合に影響を与えることが初めて示されてから10年以上たった今、2つのグループがこのアイデアを実行に移した。Parkたちは、金ナノ粒子に付着させたDNA分子と粒子をリンクするのに使うDNA分子を選んで、ナノ粒子を面心立方晶あるいは体心立方結晶のいずれかに自己集合させられることを実証している。
とあり、10年以上前に見出された手法を基に、初めて3次元構造を作り上げたということのようだ。原理的にはこの手法を使うことで、1個1個の原子を完全に設計図どおりに配置することも可能で、これにより完全にオーダーメードの物質作りも可能となるわけだ。将来的には、フォトニクス、磁気的応用、生物医学センシング、情報およびエネルギーの蓄積などの分野での応用が考えられているようだ。

DNAの塩基対を使うことで、粒子間の距離を正確にコントロールすることができそうなことは理解できるのだが、これを3次元に広げるのはそんなに簡単なこととは思えない。各粒子はその周囲の複数の粒子(配位数分の粒子)と結合する必要があるわけで、塩基鎖をその数だけ、しかも粒子の表面の特定の位置(結合相手の粒子と正対する位置)に、それぞれ相手の粒子との距離が正確に望みどおりとなるように取り付けなくてはいけないのではないだろうか? 

例えば、上のニュースに絵が載っている体心立方格子を作る場合、各粒子は8配位しているから、8本の塩基鎖を金ナノ粒子上の正しい位置にそれぞれ取り付けなくてはならないのではないだろうか? そもそも特定の長さの塩基鎖を粒子の表面に取り付けるなんてことはどうやって実現するのだろう? しかも、各金粒子に何本の塩基鎖をくっつけるのかなんてことまでコントロールできるのだろうか? 

原理的にはわからんでもないけど、どうやって実現するかとなると、相当にハードル高そうに思うし、実際の実験操作となるとまるで具体的にイメージできない。でも、実際に体心立方格子と面心立方格子ができたということだから、最先端のナノテクノロジーというか、バイオテクノロジーはすごい! と驚くしかない。。

ちなみに、こうしてできた3次元構造は非常にスカスカで、ナノ粒子が全体に占める割合はわずか5%程度、DNAも5%程度ということで、90%近くが自由空間ということで、それはそれで面白い用途がありそうな構造のようだ。

なお、Natureの論文のタイトルなどでも、この技術を crystallization と呼んでいるけど、こういうのを結晶化と呼ぶのだろうか? 通常の結晶の場合、構成要素はあくまでも原子や分子だが、こいつはどんなに3次元的に規則的に配置されているとはいっても構成要素がナノ粒子だし、結晶という言葉を使うのは抵抗があるなあ。。

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2008/01/29

「生命科学の冒険」

ちくまプリマー新書は初めて。中高生を主たる読者として想定している割には、「環境問題のウソ」とか『「科学的」って何だ!』などを書店で見てみると、読みやすそうだけど、内容が冒険的というか、定説とか基本を抑えていないような点が気になるし、どうだろう? と評価していた。しかし、この本はちょっと面白そうだったので、読んでみることに。帯には

「最先端」でも「ちょっと待てよ」
科学の進歩と倫理の問題を考える
とある。著者は毎日新聞の論説委員で、出身は東京大学の薬学部とのこと。

ちくまプリマー新書 073
 生命科学の冒険  生殖・クローン・遺伝子・脳
 青野 由利 著 bk1amazon

さらさらと簡単に読めて、非常に読みやすいけど、内容は非常に充実している。これは、中高生向けの本と位置づけるのはもったいない。これからの時代を生きていく人たちが身に付けておくことが望ましい、生命科学分野の最新の基礎知識や、今後ますます真剣に考える必要が出てくるであろう生命倫理問題が実にコンパクトに要領よくまとまっている。文句なしに多くの大人たちに勧めたい。

第1章は生殖がテーマ。体外受精、非配偶者間人工授精、受精卵養子(胚の提供)、代理出産(サロゲート・マザーとホスト・マザー)、死後受精などが取り扱われている。

第2章はクローンと再生医療がテーマ。クローン羊ドリー、体細胞クローンと受精卵クローン、人への臓器移植のためのクローン豚、クローンペット、治療薬を製造する動物工場、絶滅動物の再生、クローン人間、クローン技術規制法案、ヒトES細胞、ヒトクローン胚、卵子の提供問題、ソウル大学の捏造問題、山中教授の万能細胞、卵子の老化、ミトコンドリア操作など。

第3章は遺伝子がテーマ。遺伝子、DNA、ヒトゲノム、遺伝子診断、遺伝子病、オーダーメイド医療、遺伝子差別、遺伝子情報の保護、遺伝子情報を知る権利と知らないでいる権利、遺伝子診断での受精卵の選択、着床前診断、遺伝子治療、遺伝子ドーピングとエンハンスメント、遺伝子格差など。

第4章は脳科学がテーマ。脳と機械の接続、脳画像の読み取りとプライバシー、ニューロマーケティング、機械が脳を変える、ロボットスーツ、記憶力増強剤、ハッピードラッグ、攻撃的な脳、脳決定論、意識とは、ニューロエシックスなど。

どうだろう、ここに列挙した用語のうち、どの程度の内容を理解できているだろう? 個々の用語の意味やその詳細を知るにはさすがにこの本だけでは不足だろうと思うけど、まあ一般人としてはこの本に書かれている程度を知っていれば十分だろうと思う。

それよりも、これらの生命科学に関わる新たな技術の意義を考え、それを実際に社会に適用していくことの是非を考えていくのは、とてもいい頭の訓練になったような気がする。本書を読んで感じたのは、個別の技術の是非を考えるだけでは不十分で、これらの技術全体を頭に入れて、他の技術とのバランスも考えてみることがとても重要だろうということだ。本書を読み進めていくと、あれがいいならこっちもいいよねとか、これがいいならさっきのあれはどうなんだ、というような場面が何度も出てくる。

本書では、それぞれの問題はどうあるべきなのかについての著者の考えはほとんど提示されていない。逆に、読者がじっくりと考えることができるように、これら多くの複雑な問題点を上手にテーブルの上に並べてくれたという印象がある。本書はとても読みやすいことだし、高校や大学で本書を読んで、みんなで議論してみるなんて使い方も面白そうだ。あるいは、家庭で家族がこの本をテーマに話し合ってみるなんて使い道も面白いかもしれない。何しろ、自分や家族が近い将来これらの問題に直面する可能性は、自分で思っている以上に高いかもしれないし。。

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2008/01/23

266回目の献血

今年最初の献血は、前回12/28以来、26日ぶり。今日は藤沢駅南口献血ルームにて。

今日もまた右腕で検査、左腕で献血。今回も検査の結果、血漿成分献血となった。最近は、あの面倒くさかった海外旅行先の記入も、問診表に前回申告した国の名前がプリントアウトされるようになったので、随分と楽になった。今日は、午前中は雪模様、その後もずーっと冷たい小雨模様ということもあり、献血に来る人も本当にまばらであった。

おみやげは、Tシャツ、歯磨きセット、お餅、ステンレスマグカップの4択で、初めて見るステンレスマグカップをいただいてきた。20080123mugcup_s_4

この製品、箱には STYLISH STAINLESS MUG CUP 450 と書かれているが、メーカーや販売元などの表示は一切なく、小さく中国製と書いてあり、なかなか怪しい雰囲気。一応、カップ部分はステンレスで、その外側をAS樹脂で囲んだ2重構造となっているが、真空にはなっていないようだ。フタやハンドル部分はポリプロピレン製らしい。熱い飲料を入れると、フタなどから何か溶出してくるかもしれないな。

3月には新しい献血ルームが横浜駅東口にオープンする予定だが、何故かこの献血ルームにはそのニュースは掲示されていなかった。先月の相模大野の場合、3月に閉鎖となるので、替わりにオープンする献血ルームのことを知らせてくれたけど、藤沢の場合には、敢えて積極的に告知する必要もない、ということだろうか?

献血カードの返却時に、Tシャツ型の2つ折りになったカードをくれた。"action 2008"というマークと、「春が来たら 1action! お願いします。」というコピーが書かれている。中身はこんな具合。20080123kenketsu_2

どうやら、はたちの献血キャンペーンが2月末で終わるので、その後を引き継いで新たなキャンペーンをやろうということのようだ。最近は特に若い人の献血離れが顕著となり、その対策に四苦八苦しているようだから、今回ははたちの献血キャンペーンで来てくれた人をリピーターにしようという狙いなのか? あの手この手でリピーターを増やそうという努力は買うけど、オリジナルPC用スクリーンセーバーなんてプレゼントに魅力を感じる人なんかどれだけいるんだろう?

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2008/01/22

「その数学が戦略を決める」

久々に、読んだ本の紹介をしてみたい。帯には、「兆単位のデータ計算が専門家にとってかわる」「政治家も、評論家も、医者も、裁判官も、映画プロデューサーもみんな真っ青!」とある。日経新聞の書評で見つけて、面白そうだったので買ってみた。ハードカバー、全340ページの本で、数学系?の話、しかも翻訳物ということで読むのに苦労するかと思ったが、内容はわかりやすいし、翻訳が山形浩生氏ということもあってか、さくさくと読めた。

その数学が戦略を決める Super Crunchers
 イアン・エアーズ 著 bk1amazon

原題は Super Crunchers、サブタイトルとして、Why thinking-by-numbers is the new way to be smart とある。crunchという単語はあまり聞かないが、コンピュータで計算するという意味があるようだ。この本を読み終わってみても、「その数学が戦略を決める」というタイトルが適切なものには思えない。しいていえば「大量計算が戦略を決める」だろうか。どうしても本書の内容を「数学」と呼ぶのは違和感がある。。

本書は、従来は専門家が行っていたような高度な判断を、いまや大量のデータを統計的に扱うことで、(専門的な知識は必ずしも使わなくても)計算によって行えるようになっている、という事例などを紹介している。その際に、計算機がどのような理論や手順に基づいて判断をしているか、などの数学的な中身が関わりそうな部分については全く触れられていない。その代わりに、いくつかの例を比較的詳しく紹介し、しかも計算機の判断の方が従来の専門家によるものよりも優れているケースが多いということや、逆にそこで懸念される問題点などを明らかにしている。

本書では、そのような大量のデータから答えを見つけ出すような計算のことを、絶対計算と呼んでいる。たぶん原文では super crunching なのだろうけど、適切な日本語はないのだろうか? 絶対計算という単語はもともと囲碁で使われている用語のようで、それ以外にネットで見つかる用例はほとんどが本書に関連しているようだが、今後この意味での用語として定着していくのだろうか?

本書に出てくる絶対計算だが、そこで実際に使われている手法は、回帰分析、多変量解析、主成分分析、ニューラルネットなど、従来からある手法そのもののようだ。しかし、その対象となるデータが膨大であり、しかもそれらが電子化されていて高速大容量の計算機で取り扱うことが可能となったことにより、非常に有用な結果を導き出すことができるようになったというわけだ。

以下、少し長くなるが本書の内容を紹介する。

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序章と第1章では、出荷前にその年の天候からワインの価格を予測したり、野球選手の有望性を判断するために統計的なデータを利用するなどの回帰分析の例が出てくる。他にも、車両盗難防止装置の普及率と実際の車両盗難件数との関係を解析し、適切な保険料を算出する話とか、カジノで遊ぶ顧客が許容する損失を予測し、限界直前で遊ぶのを止めさせるアイデアや、入社テスト時のアンケート調査からその求職者の適性を判断する例なども紹介されている。まあ、これらの話は現実に日本でもいろいろと応用されていそうな例だ。

第2章は、ランダムテストの例である。これは、例えばAとBのどちらが客に好まれるのかを知りたい時に、サービスを受ける顧客をランダムに二分し、一方にはAを、他方にはBを与えるテストを行い、その結果からどちらを本格的に採用するかを決めるような方法である。ここでは、クレジットカード会社がキャッシングの金利を多段階に変えて、顧客の反応を見たり、ウエブサイトのデザインをランダムに変えて、どのデザインが好まれるかを実際のクリック数で判断したり、といった例が出ている。

この方法のメリットは、ほぼ理想的な無作為抽出が可能なので、知りたい答えが比較的ストレートに出てくることで、従来の統計解析のように、多数のコントロールされていないデータから苦労して答えを見つけ出す必要がないということだ。 なるほど、こんな方法があったのか! と驚かされたけど、実はこの手のことは既に日本でもやられているのだろうか? 我々が知らないうちに、実はランダムテストの被験者になっている可能性もあるかもしれない。

第3章は、政府が行うランダムテストの話。少なくともアメリカでは政策の有効性を試すために、試験的に複数の措置を実施し、その結果から本格的な政策を決めるというようなことが行われているのだそうだ。また連邦制であるため、それぞれの州が独自に政策を競い、その結果を見て最良の政策にスライドしていくようなこともできる。また、メキシコでは貧困対策のランダムテストを行い、その結果を使って全国展開をしたなんて例があるようだ。なお、この章では、アメリカの裁判官の割り当てが完全にランダムなので、各裁判官の過去の判決データを解析することで、各裁判官の判決の傾向(量刑のランク)が予想できるなんて例も出ている。

第4章は根拠に基づく医療(EBM)の例。今では、過去の病例や最新の研究結果を網羅したデータベースを元に、患者の病歴や個別症状から病気の診断を行ってくれる「イザベル」というソフトウエアができているとのこと。もちろんこれだけで確定的な診断ができるわけではないので、可能性のある病名やさらに必要な検査項目をリストアップしてくれるものようだ。これにより、従来は見落としがちだった、非常に特殊なケースの可能性も検討できるとか、最新の研究結果を反映した診断が可能となるなど、患者はもちろん医者や病院にとっても相当大きなメリットが出てきそうだ。訳者あとがきによると、残念ながら日本では専門家の抵抗も大きく、このようなソフトが実用化される動きは今のところないらしい。

第5章は専門家と絶対計算の争い。とかく専門家は自分の判断に自信を持っていて、このような(比較的単純な少数の因子だけで結果が予測できるという)絶対計算の結果を過小評価しがちのようで、この章では、いくつかの実例を挙げて、実は絶対計算の方が優れているし、絶対計算結果を参考にして専門家が最終判断するケースでは、絶対計算よりも悪い結果しか得られなかった、という例を紹介している。まあ、そういうケースもあるだろうけど、逆に十分な予測精度を持つ絶対計算モデルがない場合もあるだろうし、一概に決められないだろうと思うけど。。 

第6章では、なぜいま絶対計算がこれだけ発展しているかということで、コンピュータの進歩、記憶容量の進歩、ネットによるデータ収集の容易化、データベースを統合する技術の進歩などを挙げている。まあ、ここはそうだろう。なお、この章で紹介されている例としては、ハリウッドの映画のヒット予測の例や、ヒットする本の題名のつけ方の例が出てくる。本書の原題、Super Crunchers も、この絶対計算によって選んだのだそうだ。ただし、邦題は編集者が(専門的知識に基づいて?)つけたものらしい。

第7章の最初に出てくるのは、アメリカのDI(ダイレクト・インストラクション)という教育法の話である。あの911の瞬間にブッシュ大統領が訪問していた小学校で行われていたのがこのDIらしい。極めてマニュアル化された教育方法のようで、少人数の子供たちを相手に、呼びかけと応答を繰り返す形で教えていく手法らしい。様々な教育論に基づく様々な教育方法があるけれど、実際のデータで見るかぎり、このDIが最も効果的であるということになっているらしい。本当だろうか? アメリカでも随分否定的な意見が多いのだそうだが、本書はこれも専門家がデータを否定する例だと主張している。

この章では絶対計算の先に待ち受ける多くの問題点も提示されている。従来は判断を下す立場にいた人たちの仕事が奪われる、様々な差別のきっかけとなる可能性、プライバシーの侵害は起こらないのか、あるいは間違った絶対計算により間違った判断が下されるような副作用など。

そして最後の第8章では、我々は普段からもっと統計的にものごとを理解する習慣を付ける必要があるという提言。それには、標準偏差(SD)を理解し、平均値±2SDの中に95%が含まれるという2SDルール、および事前確率に新たな条件を組み込んで事後確率を求めるベイズの理論を理解することが有効であるとしており、これらの概念の簡単な理解のしかたを紹介している。

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長々と本書の内容を紹介してきたが、なかなか面白かった。絶対計算をあまりにも万能であるかのように持ち上げすぎという気がするが、こういう動きが世の中で起こっていることはもっと広く知られるべきだろう。日本の現状はどうなのか、というのが気になるところだが、訳者のあとがきでは、日本の場合には専門家の抵抗はアメリカ以上のようだし、個人情報保護法のおかげ(?)もあって、今後の発展にもかなりの制約があるだろうと書かれている。

それでも日本でも、この分野は今後どんどん発展していくだろうし、確かに有益な面も多いけれど、倫理面を含めて憂慮すべき問題点もたくさんある。この分野の具体的な現状や将来像がもっと表に出てきて、いろいろな立場(推進する側や抑制する側)から議論される必要があるように思える。

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2008/01/19

貴金属を使わないディーゼル排ガス浄化システム(ECR)

1/18の日本経済新聞のテクノロジー面で見つけた記事。

ディーゼル排ガス 貴金属使わず浄化 立命大など PMほぼ完全除去

 立命館大学の吉原福全教授と堀場製作所は、高価な貴金属を使わないディーゼル排ガス浄化装置を開発した。実験室段階では粒子状物質(PM)はほぼ完全に、窒素酸化物(NOx)は9割以上取り除ける。自動車やセラミックスのメーカーと組んで改良を進め、乗用車やトラック向けに3-4年後の実用化を目指す。

 ディーゼル排ガスの浄化には、PMを捕まえるフィルターとNOxを分解する貴金属触媒が必要。触媒は白金など高価な貴金属を排気量1リットルにつき5-10グラムほど使っているという。白金は世界的な自動車排ガス規制の強化で需要が高まり、値上がりしている。

 開発した技術は燃料電池用のセラミックスを使う。主な成分はガラスや半導体の研磨材に使う安価な酸化セリウム。フィルター状になったこのセラミックスに排ガスを通し、電圧をかけて排ガスのNOxを分解。取り出した酸素イオンでPMを浄化する。この過程でNOxとPMは無害な二酸化炭素(CO2)と窒素、水になる。(以下略)

という記事なのだが、何回読んでもどんな構成となっているのかわからない。燃料電池用のセラミックスって何だろう? SOFCだったらジルコニアかな? 酸化セリウムは少なくとも主原料としては使われないと思うけど、どうだろう? 電圧をかけて分解し、酸素イオンを取り出す? うーむ??

探してみたら、NEDOのサイトで、「革新的次世代低公害車総合技術開発」中間評価分科会資料という詳細な資料がみつかった。システムの概要として「多孔質固体電解質を介してフィルタリングによるアノード極でのPMの捕集と、カソード極でのNOx吸蔵材によるNOの吸蔵を行い、固体電解質への通電によりPMとNOの同時低減を図るシステム(以下ECR:electrochemical reduction と呼ぶ)の開発」と書いてある。

メカニズムの説明によると、

・排ガスをアノード側からカソード側に透過
・アノードへフィルタリングによってPMを捕集
・カソードでNOx吸蔵材によってNOxの吸蔵
・固体電解質の通電により酸素イオンが強制的にカソードからアノードに移動
・アノードでは酸素雰囲気となりPMが酸化
・還元雰囲気となるカソードではNOxが還元
・併せてアノードではHCやCOなどの未燃焼成分の酸化分解
・カソードでのNOx吸蔵を促進するために排ガス中のNOのNO2への酸化
という説明がある。固体電解質としては多孔質のYSZ(イットリア安定化ジルコニア)または多孔質のSDC(サマリウム添加セリア)を使用し、NOx吸蔵材としては、SDCまたはBaを使用したテストを行っている。ということで、この方式の全体構成や原理については、この資料の説明と模式図でどうにか理解できたけど、それを踏まえてもあの新聞記事の説明では理解が難しいと思うけど。。 せめて説明図だけでも記事中に入れて欲しいところだ。

ところで、SOFC型の燃料電池の電解質にはジルコニア系が使われるものだと思っていたけど、ここの説明にあるように、セリア系やランタンガレート系なども候補材料となっているようだ。

この排ガス浄化システムは、なかなか面白いシステムだと思うけど、ガスの透過量とか、酸素イオンの移動速度とかを考えると、現実的な大きさの装置で目標の性能を達成できるのだろうか?という疑問や、既存の触媒システムの場合は特に外部エネルギーは使わないのに、このシステムだと電気エネルギーが必要だけど、どうなんだろうなんていう疑問が出てくる。

しかし、このレポートを読むと、どうやら(いくつかの課題が無事に解決できるという仮定を置いた場合には)実用に耐えられるレベルの装置が既に視野に入っている状態のようで、意外にも(?)結構期待できる技術なのかもしれない。まあ、実際に自動車に搭載するまでにはクリアしなくてはならないハードルは相当に高そうだし、この手のレポートは多少割り引いて読む必要もありそうだけど、ともかくも注目しておく価値がありそうだ。

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2008/01/18

モスアイ型の無反射フィルム

化学工業日報(The Chemical Daily)のニュース(1/17)から。三菱レイヨン、モスアイ型無反射フィルムの連続製法開発

 三菱レイヨンは16日、世界で初めて連続製造が可能なモスアイ(蛾の目)型の無反射フィルム製造プロセスを開発したと発表した。財団法人・神奈川科学技術アカデミー(KAST)と共同で取り組んできたもので、同フィルムの反射率は0.1%以下。両者は同フィルムの大面積化および量産技術の開発に着手しており10年の量産化を目指す。従来の反射防止フィルムを凌駕する特性を生かし、フラットパネルディスプレイ(FPD)やモバイル機器、建材などに幅広く展開したい考え。
モスアイ型というのは聞いたことがなかった。蛾は英語で moth 、モスラの語源もここから来てそうだが、昆虫の分類などには結構大雑把で、何でもinsectとか呼んじゃう欧米人が、蝶と蛾を区別していたとは意外な感じもする。。 さて、三菱レイヨンのプレスリリースを見ると、モスアイ型の無反射フィルムは
 フィルムの表面に百ナノ(ナノは10億分の1)メートルスケールで規則的な突起配列を有する構造を持つフィルムです。この突起構造を持ったフィルムは、厚み方向の屈折率が連続的に変化するため、フィルムにあたる光を反射させることがほとんどありません。今回作製したモスアイ型無反射フィルムの反射率は 0.1%以下で、一般的な反射防止フィルムと比べ1/20以下と飛躍的な性能を示しています。
とのこと。製造方法は、神奈川科学技術アカデミー(KAST)のナノホールアレーと呼ばれる、陽極酸化により表面に規則的な細孔を形成したアルミ板を、いわば鋳型のように利用してアクリル樹脂表面に微細な突起を形成したようだ。

蛾の眼は、透けない白 VS. 本当の黒で説明されているように、眼の表面が微細で規則的な凹凸構造となっており、これが極めて反射率の小さい、従って微量の光を効率よく取り込むことができるようだ。これにより蛾は夜間でも活動ができるということらしい。

実は、表面に微細な凹凸を形成することで反射防止をしようというアイデアは、従来から知られているし、このブログでもナノ表面構造による反射防止技術として昨年紹介している。このときに調べた技術と呼び名や製造方法は異なるものの、その原理は全く同じもののようだ。今回の技術はガラスではなく樹脂を対象としていることや、恐らく製造方法が比較的シンプルで安価で大量生産が可能となることが期待されるみたいだし、我々の身近なところに広まる技術となるかもしれない。

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2008/01/16

「21世紀、科学技術とどう向き合っていくか」特別シンポジウム

最近ブログの更新が滞っているけれど、元気ですよ、ということで、本日参加してきたシンポジウムの話を少し。

これは、日本学術会議を始めとして、科学技術振興機構、日本学術振興会、日本工学会、日本化学会、日本機械学会、日本物理学会などが共同主催したもので、「21世紀、科学技術とどう向き合っていくか」というとても大きなテーマを議論しようというもの。この特別シンポジウムの趣旨や内容は、こちらのページで見ることができる。

シンポジウムのタイトルが非常に広範囲で漠然としたものではあるが、主たるテーマはニセ科学を巡る問題およびその背景となる社会状況について多方面から議論しようということである。今回のシンポジウムが企画されたきっかけは、昨年日本化学会の会誌で安井先生が「水からの伝言」に対する危機感を表明したことをきっかけとして巻き起こった議論にあったようだ。

とはいえ、テーマがテーマだし、講演者やパネラーはそれぞれ異なる立場の方々なので、現状認識や問題意識もバラバラだし、このシンポジウムに期待するものもそれぞれかなり異なっていたように思う。参加者は100名程度だろうか。平日の昼間に無料で行われたわけだが、参加者の多くは平均年齢がかなり高めのスーツ姿のおじさん達といったところ。それでも、こんなメンバーが集まって、こんな場所で、こんな風にニセ科学が議論されるようになったというのは、大きな進歩のように思える。(進歩といっていいのか?)

面白かったのは、元文部大臣、現日本科学技術振興財団の会長の有馬朗人さんの講演。有馬さん自身の体験に基づいた常温核融合騒動の問題点の話や、BPO(放送倫理・番組向上機構)設立の経緯の話などを交え、実に明快にニセ科学を巡る問題に立ち向かう姿勢について語っていただき、とても元気と勇気をもらえたように思う。有馬さんの提言としては、科学者はニセ科学を批判する勇気を持てということ、考える力や批判する力の重要性を世に訴えること、マスコミは反(非)科学的情報を規制する組織を作ること、など。

パネルディスカッションは、時間も中途半端で議論も拡散しがち。本当はパネルディスカッションよりは、各パネラーにそれぞれ20分ぐらいの持ち時間で講演してもらったほうが得られるものが多かったかもしれない。

最終的に、このシンポジウムからの提言として「21世紀、科学技術とどう向き合っていくか」のステートメントというのが出された。できるだけ多くの人にこの提言を伝えて欲しいということなので、ステートメントそのものをここに掲載しておく。(PDF版テキスト版(OCRしたもの)) 

このステートメント、読んでもらうとわかるけど、「みんながそれぞれの立場でやるべきことをきちんとやりましょう!」というようなもので、まあ驚くようなことは何も書かれていないし、何かこれだけは頑張ってやろう、というような重点目標があるわけでもなく、あれもこれもやりましょう、というありがちなものである。でも、できるところができることをやる、という形で少しずつでも良い方向に向かって動き出せば、全体としては確かに少しずつでも改善されていくのかもしれない、と期待しておこう。

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2008/01/08

ココログ48か月

ココログを始めて丸4年が経過。1か月当たりのカウンターの伸びは、16000程度と年末年始をはさんだこともあり少なめ。

 1か月目:900     2か月目:4500    3か月目:11700    4か月目:19000
 5か月目:32300   6か月目:43500   7か月目:54500    8か月目:72000
 9か月目:87700   10か月目:105400  11か月目:125400  12か月目:140600
13か月目:163000  14か月目:179300  15か月目:194700  16か月目:205300
17か月目:216800  18か月目:231700  19か月目:251100  20か月目:276400
21か月目:301200  22か月目:326400  23か月目:351400  24か月目:372400
25か月目:398100  26か月目:419300  27か月目:436100  28か月目:452700
29か月目:474500  30か月目:492100  31か月目:510100  32か月目:529800
33か月目:548600  34か月目:565300  35か月目:583300  36か月目:598200
37か月目:619200  38か月目:640000  39か月目:657000  40か月目:673500
41か月目:694300  42か月目:715400  43か月目:736900  44か月目:762300
45か月目:782100  46か月目:803500  47か月目:823100  48か月目:839000

この1か月のアクセス解析結果は以下の通り。

(1)リンク元
 1位 http://www.google.co.jp 全体の28%(前回1位)
 2位 bookmark 全体の18%(前回2位)
 3位 http://www.google.com 全体の7%(前回3位)
 4位 http://search.goo.ne.jp 全体の2%(前回4位)
 5位 http://cgi.search.biglobe.ne.jp 全体の1%(前回5位)

アクセス元の傾向にはほとんど変化は見られなかった。

(2)検索キーワード
 1位 ベンタ(前回5位)
 2位 レスベラトロール(前回3位)
 3位 注射針(前回4位)
 4位 発光ダイオード(前回11位)
 5位 ハイジェン液(前回9位)
 6位 効果(前回17位)
 7位 しらせ(前回2位)
 8位 南極観測船(前回1位)
 9位 改造(前回20位)
10位 献血(前回23位)
11位 フラーレン(前回8位)
12位 アメリカ(前回10位)
13位 自転車(前回13位)
14位 乳酸(前回7位)
15位 化粧品(前回14位)

今回の注目は、久々にベストテン入りした「献血」だろうか? 3月に神奈川県の献血ルームの再編が予定されている関係で、検索頻度がアップしそうな予感も。

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2008/01/07

京都議定書の約束期間はもう始まってるの?

年末年始は急な仕事が入ったことに加え、ダイヤルアップでしかネットにつながらない環境にいたので、ご無沙汰してましたが、遅ればせながら本年もよろしくお願いいたします。

久々にダイヤルアップでネットにつないでみたが、その不便なことに驚かされた。昔は特にストレスなく見ることができたニュースサイトなども、広告や多くの画像が貼り付けられているために非常に重くて、到底実用にならないことに辟易とさせられた。それでも毎日の天気予報だけは頑張ってダウンロードしたので、東京地方の過去の天気予報は、何とかデータを欠くことなく継続できた。

さて、今年は京都議定書の約束期間が始まる年ということで、年明けからそれに関するニュースなどを何度か見聞きしたのだけど、1月から約束期間が始まったという趣旨のニュースもあれば、いよいよ今年の4月から約束期間が始まるというニュースもあったりで、何だか混乱してしまった。まあ、1月から始まろうが、4月から始まろうが大勢に影響はないのだろうけど、何だか気になるところ。

調べてみると、例えばMSN産経ニュースでは

 地球温暖化防止に向けて、先進国に二酸化炭素(CO2)など温室効果ガスの削減を義務づけた京都議定書の第1約束期間(2008~12年)が1日から始まる。先進国全体で1990年に比べ、年平均5・2%削減することを目指し、日本も平均6%の削減が義務づけられている。

 温室効果ガスにはCO2のほか、メタン、一酸化二窒素(N2O)、代替フロンなどがある。日本は統計上の問題から年度ベースでの対応となり、実際に約束期間の排出量として算入されるのは4月からとなる。

とあり、世界的には1月からの排出量がカウントされるのに対し、日本は4月からの排出量がカウントされるということらしい。一方、asahi.comによると
 排出量は、各国が石油消費量などの統計から国際ルールに基づいて計算し、国連気候変動枠組み条約事務局に報告する。日本では、温室効果ガスの量の95%を占める二酸化炭素とメタン、一酸化二窒素は年度ごとの統計に基づくため、約束期間の排出分に算入されるのは4月1日からになる。1月から算入されるのは、業務用冷蔵庫の冷媒などに使われる代替フロンなど3種類のガス。
とあり、二酸化炭素やメタンなどは4月から、代替フロンなどは1月からカウントするというとても複雑なルールになっているようだ。それにしても、暦年と年度が一致しないのは日本だけなのだろうか?

環境省のサイトで気候変動枠組条約・京都議定書のページ周辺をざっと見た限り、各国の約束期間が何月から始まるのかなどの具体的な規定が書かれているページは見つからなかった。少なくとも、京都議定書や気候変動枠組条約そのものにはそんな細かなことは記載されていないようなので、別の取り決めで細かなことが規定されているのだろう。環境省のサイトなどを頑張って探してみたのだけれど、結局それらしい情報を見つけることはできなかった。。

安井さんの市民のための環境学ガイドでも京都議定書第一約束期間スタートでも議論されているように、このまま行くと日本は京都議定書の約束を果たすのは相当に大変な状況にあるのは間違いないようだ。3か月だけでも先延ばしできるということは取り組みの遅れている日本にとってはちょっとだけでもありがたいことなのかもしれない。

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