環境ホルモン濫訴事件:中西応援団というサイトがオープンした。「ネット評論と濫訴を考える会」という、ボランティア組織が立ち上げたサイトだ。この訴訟に関する直接の利害関係者でもなく、中西準子さんの個人的なサポーターでもなく、当然、普段は本来の仕事をしている方々が中心となって運営されていることに、まずは深く敬意を表したい。
このサイトには、今回の訴訟の経緯、訴状を始めとした各種関連資料、この訴訟を考えるための基礎知識(民事訴訟や名誉毀損とは何か?)、「ネット評論と濫訴を考える会」が考えるこの訴訟の問題点、掲示板、関連リンクなどの非常に充実した情報が掲載されている。訴訟関係の素人や、この問題自体になじみがない人のことまでよく考えられ、かなり丁寧な作りとなっていることにも感心させられる。
さて、中西さんの本は今まで何冊か読んだし、中でも最近の「環境リスク学-不安の海の羅針盤」は、まさにサブタイトルの通り、複雑なトレードオフの絡む事象に対処していくための1つの指針として非常に参考になる本だと思う。また、今回の訴訟も絡んでいる、ダイオキシンを始めとする環境ホルモンの問題や、化学物質の環境影響評価の問題を考えていく上では、中西さんの従来の業績や考え方はもはや避けて通れない存在となっていると思うし、その筋の通った考え方など多くのことを学ばせていただいた。
そこに今回の名誉毀損訴訟問題である。中西さんの雑感は定期的に巡回して読んでいたので、問題となった2004/12/24の雑感286もリアルタイムで読んだはずだったが、実はあまり記憶に残っていなかった。ところが、その後、その文章が削除され、名誉毀損問題に発展したことを知った。それ以降の経緯は、訴訟となったためか我々第3者にとっては、何が問題だったのかが良くわからないまま、中西さんの雑感や応援する人のサイトなどから進捗を読み取ることしかできなくて、非常に歯がゆい状態であった。
ありがたいことに「環境ホルモン濫訴事件:中西応援団」には、その問題となった雑感286を始めとして、原告・被告両者の提出書面が(少なくとも一部)掲載されている。全部を読んで理解するには少し時間を要するのだが、現時点で自分なりの考えをまとめておくと同時に、この中西応援団への参加表明としたい。(参加というよりも、中西応援団ウォッチング宣言という感じだけど。)
今回の訴訟の問題点、特にこの訴訟自体が濫訴ではないのか、という点については、このサイトに詳細に記載されているので、今後、資料をよく読みながら勉強していこうと思う。ここでは、現時点で個人的に気になる点を整理しておきたい。
一つ目は、何が名誉毀損に該当するのか?という最もプリミティブな問題である。僕なりに解釈すると、中西さんの雑感の中の記述のうち、
パネリストの一人として参加していた、京都大学工学系研究科教授の松井三郎さんが、新聞記事のスライドを見せて、「つぎはナノです」と言ったのには驚いた。要するに環境ホルモンは終わった、今度はナノ粒子の有害性を問題にしようという意味である。
(中略)
学者が、他の人に伝える時、新聞の記事そのままではおかしい。新聞にこう書いてあ るが、自分はこう思うとか、新聞の通りだと思うとか、そういう情報発信こそすべき ではないか。情報の第一報は大きな影響を与える、専門家や学者は、その際、新聞や TVの記事ではなく、自分で読んで伝えてほしい。でなければ、専門家でない。
という辺りが問題となっていると思える。中西さんが環境ホルモン問題について「空騒ぎ」であったという立場の主張をしているのは周知のことであろう。とすると問題点は、上の文章の中の「環境ホルモンは終わった」という部分は、果たして松井さん自身の言葉なのか、あるいは松井さんのプレゼンの内容を中西さんが要約した言葉なのか、はたまた中西さんの勝手な思い込みなのか、という点なのではなかろうか? 原告の背後に見え隠れする団体を考えると、「環境ホルモン問題は終わった」という言葉は原告が口にしたのではなく、被告が勝手に脳内変換した言葉だよ、ということを言いたいのかな?と思うのだが。。 だとすると「言ってもいないことを言ったかのように書かれた」という主張になるのかな?
もう1点は、後半部分の「専門家でない」に代表される部分のようだ。 ここだけを抜出すと侮辱したかのように思えなくもないが、全体の文脈としては無理があるのじゃなかろうか。。 これらの点については、これからの口頭弁論の中でも徐々に明らかになっていくだろうと思うので、今後の成り行きを見ていこうと思う。
二つ目は、ネット上の個人の文章表現が、こうも簡単に、名誉毀損で訴えられるというのは他人事ではないという点である。このブログも、ひとさまの書いた文章をネタにして言いたいことを書いている以上、同じ危険性を有していることを覚悟せざるを得ない。まあ、こっちは匿名で気楽にやってるので、訴えられたらさっさと引っ込めることも可能だが、それにしたって、こんな具合に問答無用でいきなり訴訟に持ち込まれたらたまらない。そもそもどこまでがセーフでどこからがアウトか、というのはネットで何らかの表現活動をしている人にとっては非常に重要なポイントである。
つまり、今回の案件を題材として、ネット上の表現で名誉毀損と判断される基準が少しでも明確になることを期待している部分がある。ただし、考えておく必要があると思うのは、今回の場合であれば、相手が中西さんだったからこそ訴えられたという部分があるだろうという点である。もしも僕が同じシンポジウムに出席していて、たまたま中西さんと同じような文章をこのブログに書いたとしても、多分訴えられないで済むだろう。影響力が違いすぎて相手にされないということだ。
とすると、名誉毀損となるかならないか、という単純な線引きは意味がないのかもしれない。しかし、影響力の大きさを考慮するとしても、あまり客観的な基準にはなりにくそうだし、議論の余地があるのは間違いないだろう。この辺も、この訴訟の進展や、それに対する議論の中で理解を深めていきたい点である。
名誉毀損については、民事訴訟って?・名誉毀損って?にまとまっているのだが、具体的な事例についてどう判断するべきか?となるとやっぱり難しい。過去の実例が複数あれば参考になるのかもしれない。
何はともあれ、このような形でオープンな議論ができる材料や場所を提供してくれた皆さんに感謝しつつ、今後の様子を注意深く見ていきたい。
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