2008/01/07

京都議定書の約束期間はもう始まってるの?

年末年始は急な仕事が入ったことに加え、ダイヤルアップでしかネットにつながらない環境にいたので、ご無沙汰してましたが、遅ればせながら本年もよろしくお願いいたします。

久々にダイヤルアップでネットにつないでみたが、その不便なことに驚かされた。昔は特にストレスなく見ることができたニュースサイトなども、広告や多くの画像が貼り付けられているために非常に重くて、到底実用にならないことに辟易とさせられた。それでも毎日の天気予報だけは頑張ってダウンロードしたので、東京地方の過去の天気予報は、何とかデータを欠くことなく継続できた。

さて、今年は京都議定書の約束期間が始まる年ということで、年明けからそれに関するニュースなどを何度か見聞きしたのだけど、1月から約束期間が始まったという趣旨のニュースもあれば、いよいよ今年の4月から約束期間が始まるというニュースもあったりで、何だか混乱してしまった。まあ、1月から始まろうが、4月から始まろうが大勢に影響はないのだろうけど、何だか気になるところ。

調べてみると、例えばMSN産経ニュースでは

 地球温暖化防止に向けて、先進国に二酸化炭素(CO2)など温室効果ガスの削減を義務づけた京都議定書の第1約束期間(2008~12年)が1日から始まる。先進国全体で1990年に比べ、年平均5・2%削減することを目指し、日本も平均6%の削減が義務づけられている。

 温室効果ガスにはCO2のほか、メタン、一酸化二窒素(N2O)、代替フロンなどがある。日本は統計上の問題から年度ベースでの対応となり、実際に約束期間の排出量として算入されるのは4月からとなる。

とあり、世界的には1月からの排出量がカウントされるのに対し、日本は4月からの排出量がカウントされるということらしい。一方、asahi.comによると
 排出量は、各国が石油消費量などの統計から国際ルールに基づいて計算し、国連気候変動枠組み条約事務局に報告する。日本では、温室効果ガスの量の95%を占める二酸化炭素とメタン、一酸化二窒素は年度ごとの統計に基づくため、約束期間の排出分に算入されるのは4月1日からになる。1月から算入されるのは、業務用冷蔵庫の冷媒などに使われる代替フロンなど3種類のガス。
とあり、二酸化炭素やメタンなどは4月から、代替フロンなどは1月からカウントするというとても複雑なルールになっているようだ。それにしても、暦年と年度が一致しないのは日本だけなのだろうか?

環境省のサイトで気候変動枠組条約・京都議定書のページ周辺をざっと見た限り、各国の約束期間が何月から始まるのかなどの具体的な規定が書かれているページは見つからなかった。少なくとも、京都議定書や気候変動枠組条約そのものにはそんな細かなことは記載されていないようなので、別の取り決めで細かなことが規定されているのだろう。環境省のサイトなどを頑張って探してみたのだけれど、結局それらしい情報を見つけることはできなかった。。

安井さんの市民のための環境学ガイドでも京都議定書第一約束期間スタートでも議論されているように、このまま行くと日本は京都議定書の約束を果たすのは相当に大変な状況にあるのは間違いないようだ。3か月だけでも先延ばしできるということは取り組みの遅れている日本にとってはちょっとだけでもありがたいことなのかもしれない。

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2007/08/01

レーザープリンタからのトナー放出による健康リスク

ITmedia News(8/1)から。「レーザープリンタに健康リスク」、研究者が指摘

 オフィスや家庭で使われているレーザープリンタに、健康上のリスクをもたらす可能性がある。米国化学会の学会誌で、このような研究結果が発表される。

 この研究は豪クイーンズランド工科大学のリディア・モラウスカ博士が実施したもの。62機種のレーザープリンタについて、トナー粒子の放出を調べた。調査対象には、キヤノン、Hewlett-Packard(HP)、リコー、東芝などのブランドで国際的に販売されている、米国やオーストラリアで人気の高いモデルが含まれる。

 モラウスカ氏は論文の中で、特定のレーザープリンタはトナーの細かな粒子を空中に放出し、人間がそれを肺に吸い込むと健康を害する恐れがあると説明している。同氏らは、62機種のうち17機種を、インクの代わりにトナー粒子を多く放出する「高粒子放出機」と分類している。実験で使ったある機種では、放出される粒子の割合が、たばこから出る粒子状物質の割合と同程度だったという。

 一方、62機種のプリンタのうち37機種は、空気を汚染する粒子の放出がまったくなかった。6機種は低レベルの放出量で、2機種は中程度。

 ほとんどのプリンタが放出する粒子は超微細であり、有害物質が肺の狭い気管にも容易に入り込んで「深刻な健康上の危険」をもたらす恐れがあるとモラウスカ氏は報告している。また、プリンタ使用によって作業中のオフィス内の粒子レベルは5倍に増え、新しいトナーカートリッジを使っているときと、トナーが多く必要な画像を印刷するときに、粒子の放出が多くなることも示された。

原理的に考えても、多少のトナーの大気中への放散は避けられないような気もするが、このような話が今までなかった方が不思議といえば不思議。ただし、この研究では、ある種のレーザープリンタから室内へのトナー粒子の放出を確認したというもので、トナー自身の有害性や、その結果として想定される健康リスクがどの程度のものなのか、などについては何も言及していないようだ。

少し探してみると、CTV.caのニュースで、もう少し詳しい情報や、今回評価したプリンタのリストが載っている。この研究はオーストラリアの大学でのもので、テストしたプリンタはほとんどがHPのプリンタなのだが、東芝のプリンタも1機種だけ高放出機に含まれている。でも、東芝のほとんど同じ型番の機種は無放出機にランクされているし、HPのプリンタも型番とトナー放出の有無の関係が全然読み取れないところから推定すると、今回の結果は、それぞれの機種固有の特性というよりは、各機器の機体差とか、機器の調子の良し悪しのようなものも関係しているような気もする。

さて、ウィキペディアによると、トナーは粒子径が5μm程度で、マウスでは肺がんが観測されたとのことだが、そんなに有害性の疑われるものが、一般製品に多量に使用されているとも思えない。たとえばMSDSを見ると、通常想定される濃度では問題なさそうだし、含有するカーボンブラックのIARC発がん性分類が2B(ヒトに対して恐らく発がん性がある)ということで、日常的に生のトナーを扱うのでなければそれほど怖がる必要はないだろう。

実際のトナーはこちらでも解説されているように、スチレン-アクリル系などの樹脂とカーボンブラックなどの着色剤などを混合し、これを溶融し、さらに粉砕して8μm程度にしている。

今回の研究では、オフィス内の環境を調べようとしたら、意外にも外よりもオフィス内の環境の方が粒子が多いということがわかり、詳しく調べてみたらプリンタが微粒子の放出源であることが明らかとなったため、改めて検討を行ったということらしい。この結果から、プリンタからのトナーの放出レベルを規制すべきだ、と述べているようだが、調べてみると既に環境ラベルの認定では、プリンタやコピー機からのトナーの放出についても考慮されているようだ。

たとえば日本のエコマーク(プリンタトナーカートリッジ)やドイツのブルーエンジェルなどでは、トナー(粉塵)の放出量や、トナーの有害性が認定の基準となっている。

なお、今回の研究はJACS Environmental Science and Technologyに掲載されるらしいが、なぜか今のところこちらでその論文原稿?が読めるようだ。

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2007/06/26

虫の侵食で消えてしまいそうな島

MSN毎日インタラクティブの記事(6/26)。無人島:虫が大繁殖、消滅の危機 瀬戸内海

 東広島市安芸津町沖の瀬戸内海にある無人島・ホボロ島が、ナナツバコツブムシという虫の大繁殖で消滅の危機にひんしている。無数の虫が掘った穴に波が打ち寄せることで岩が削られ、二つあった岩山のうち高かった方は完全に崩落した。調査を続けている沖村雄二・広島大名誉教授(地質学)は「島の地形を変えるほど大規模で急速な生物侵食の報告は、世界的にも珍しい」と指摘している。

 ホボロ島は1928(昭和3)年の地形図によると、東西約120メートルの細長い島で、最も高い所で21.9メートルあった。昭和30年代に撮影された写真では二つの岩山があり、高い方には松など植物が生えているのが確認できる。現在は、高い方の岩はほとんどなくなり、岩が散乱する砂州に高さ約6メートルの岩が一つ立つだけで、満潮時には大半が水没してしまう。

 地元住民の間で、「台風のたびに島が小さくなる」と言われており、依頼を受けた沖村名誉教授らが昨年、調査を開始。ダンゴムシと同じ甲殻類で体長1センチほどのナナツバコツブムシが無数に生息し、岩に多数の巣穴を開けているのを確認した。島の地質は、風化しやすい凝灰岩がむき出しの状態で、穴が開いてもろくなった岩が波の力で崩れ、急速に崩壊が進んでいるとする結果をまとめた。

 周囲の島では同じ現象は見られない。ナナツバコツブムシの生態は詳しく分かっていないが、沖村名誉教授は「ホボロ島の地質が巣穴を掘るのに適した軟らかさで、ナナツバコツブムシのえさが豊富にあるなどの条件も重なったのではないか」と推測している。

 調査結果は29日午後6時から、広島大総合博物館(東広島市)である公開講演会で発表される。

ということで、元記事には、以前と現在の島の写真や問題のナナツバコツブムシの写真が掲載されているのだが、ややわかりにくい写真である。探してみると、同じニュースは今年5月のiza:イザ!にも掲載されている。

また、東広島市自然研究会には、よりわかりやすい写真や解説が掲載されている。毎日の記事に出てくる講演会はこれ

広島といえば、厳島神社が最近何度も台風の影響で冠水する事態になったニュースが記憶に新しい。これは「温暖化による海面上昇と、黒潮の蛇行や暖水塊の接近に伴う異常潮位が原因とされる」とのことで、今回のホボロ島もその近くだし、同じ原因が多少は関係あるのかもしれない。しかし、写真を見ると、海面による浸食というよりは、岩の崩壊という感じなので、虫による侵食が主要因なのは間違いなさそうだ。

ところで、このナナツバコツブムシ、あまり知られていない虫とのことだが、水産加工品の異物混入の原因と対策によると、コツブムシ科の一種のようで、近い種としてヨツバコツブムシというのもあるようだ。また、こちらによると、コツブムシというのはキクイムシ類に属するのかな。(ウィキペディアではワラジムシ目コツブムシ亜目(有扇類)となっている)

ヨツハコツブムシは海水中のプランクトンなどをろ過して栄養源として摂取している。木材を消化・吸収する能力はなく、住処や隠れ場所として木材に穿孔する。
とあるが、ナナツバコツブムシの場合には木材の代わりに柔らかい岩石に穿孔して隠れ場所とするようだ。

岩石の質やエサの存在、さらには天敵がいないなど、この島の環境がよっぽどナナツバコツブムシに適しているのだろう。しかし、繁殖し続けているうちはさぞかし快適だったのだろうけど、いまや自分たちの生存に適した環境を自ら崩壊させているわけで、遠からず島の消滅と共に、彼らも死に絶えてしまう可能性が高そうだ。。

その意味でこのニュースは、人類の将来を暗示しているような感じがして、悲しいものがあるのだが、いわゆる自然破壊というのは、必ずしも人間だけが行っているわけではない、という例として考えられる点も、なかなか興味深い。

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2007/05/22

イノベーション25とバイオブタノール

化学工業日報 The Chemical Daily News で見つけたニュース(5/22)から。総合科学技術会議、技術革新戦略ロードマップ公表

 総合科学技術会議は、イノベーション25中間とりまとめを受けて、イノベーション創出に向け、社会還元を加速するプロジェクト、分野別の戦略的な研究開発の推進、基礎研究の3層構造で形成した技術革新戦略ロードマップをとりまとめ公表した。このなかで、社会還元を加速するプロジェクトの一環として、「食料・飼料と競合しないバイオマス資源の総合利活用」を推進することによって、リグニンからの高機能樹脂、ナノセルロースファイバー、バイオエタノールを上回る高オクタン価ガソリン添加基材のバイオブタノールなどの技術開発を推進する。また、これらをベースにしたナフサ、エタンガスに代替する汎用樹脂原料のエチレンやプロピレンの供給多様化を視野に入れていく。
イノベーション25というキーワードは最近になって時々ニュースなどで聞く言葉。内閣府のサイトにも、イノベーション25のページがある。安倍政権が打ち出した政策の目玉の一つで、今から18年後の2025年までの技術革新計画といったもののようだ。どんな技術革新をイメージしているのかは、イラストで見る20のイノベーション代表例がわかりやすい。がん・心筋梗塞・脳卒中の克服とか、同時翻訳装置とか、空気をきれいにする自動車だとか、ある程度可能性のありそうなものからロボットによる月旅行なんてテーマまで並んでいる。

さて、今回のニュースはそのイノベーション25の中間とりまとめをベースにより具体的な開発テーマを発表したというものの中から化学系のテーマを抜き出して書いたもののようだ。総合科学技術会議のサイトに、この記事の元となった資料が載っている。総合科学技術会議(第67回)議事次第を見ると、資料1-2の(3)の4ページ目からが「食料・飼料と競合しないバイオマス資源の総合利活用」となっており、バイオマスを原料とした化石燃料代替燃料開発となっている。

これによると、「バイオマス資材の調達」では、未利用バイオマス資源の大量収集、低コスト集荷輸送技術の開発、ゲノム研究の成果等を応用した高バイオマス資源作物の作出・生産、が開発が必要な技術として上げられている。未利用バイオマス資源としては、森林資源、資源作物、有機系廃棄物など、食料・飼料と競合しないバイオマスと書かれているが、具体的な数量などは特に書かれていない。そんなに十分な量があるのだろうか?

「バイオ燃料化技術」では、分解、糖化、発酵システムの効率化により、バイオマス燃料の高効率量産技術を開発するとある。具体的には新規発酵菌や酵素の作出によりC5、C6糖の同時発酵技術、糖化-発酵の一段処理技術、セルロース系資源の分解・糖化・発酵技術の開発や、エタノールの高吸湿性等の欠点を解消するための、より燃焼効率が高いブタノール等の生産技術の開発を含むとある。

また、「材料製造技術」では、バイオアルコールからの汎用化成品の製造、リグニンを利用した高機能ポリマーの生産、セルロースを利用したセルロースナノファイバの調製およびこれを活用したバイオナノファイバコンポジット(BNFC)、高性能フィルム等の生産技術の開発があげられている。

ロードマップとしては、5年以内に要素技術を開発し、5年目に燃料生産の実証プラントの構築といった計画が書かれている。2025年には例えばバイオナノファイバコンポジットで補強されたバイオマス由来の材料でできたボディーで構成され、バイオ燃料で走行する自動車の開発を目指すとある。

うーむ、2025年にはまだバイオ燃料で走る通常の内燃エンジンを想定しているんだ。。 なんとなく他のテーマ(燃料電池自動車など)と整合性が取れていないような気もするけど、こちらの方が現実的な線かもしれない。 ただ何というか、無理やり何にでもバイオマスを導入しようとしているような印象もあるのだが、結局のところ、現在未利用のバイオマスがどれだけあって、そこからどれだけ効率的に樹脂や燃料を合成できるか? という部分に掛かっていると言って良いだろう。

ところで、ここに出てくるバイオブタノールだが、ウィキペディアにも出ているように、昨年BPとデュポンが発酵によるバイオブタノール生産技術の開発について発表を行っている。

 早期の市場への導入のため、初期のバイオブタノールの生産は、既存の技術で行います。第二段階では、新しいバイオテクノロジー・プロセスを使ってより高収率な生産の研究開発に着手しています。この生産には色々な種類の原料、例えば、サトウキビやビート、トウモロコシ、小麦、キャッサバなどを使用するつもりですが、将来的には、成長の早いイネ科作物や、麦わら、トウモロコシの茎といった「農作物副産物」のセルロース系原料の使用も視野に入れています。バイオブタノールの製造工程はエタノールと類似しており、使用する原料も同様であることから、既存のエタノール生産設備を改造すればバイオブタノールを生産することができます。
とあるが、何となく糖やセルロースはC5とかC6の化合物であり、これを原料にC4化合物を生産するのって、効率悪そうに思うのはバイオを知らない人の思い込みなのだろうか? 調べてみると、アセトン・ブタノール発酵というのはかなり古くから知られた発酵技術で、こういうのをベースに遺伝子組換えなどにより効率を高めるということかもしれない。

ところで、ブタノールといえば、1-ブタノール2-ブタノールなど、結構強烈な臭いがするし、それなりに有害性があるようだけど大丈夫だろうか? まあ、発がん性はないようだし、有機溶剤としての使用上の注意という点ではガソリンと同等ということで良いのかな。

一方、高濃度アルコール燃料のエンジン等への影響は、国土交通省の報告書によると、アルミニウムやゴムへの腐食が懸念されるものとなっており、どうやら既存のエンジンでは残念ながらブタノール100%燃料は使用できないようだ。まあ、ブラジル等でエタノール対応の車が走っているから、これについてはそれほど難しい話ではないだろうとは思うけど。

さて、将来の本命のバイオ燃料はブタノールになるのだろうか?

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2007/04/19

エタノールはかえって大気汚染を悪化させる?

最近、バイオエタノールがらみのニュースを多く目にするようになったのだが、アメリカでは、自動車燃料用のトウモロコシ生産が急増するとか、価格が上昇していろんな影響が出始めているとか、何だか大変な状況。そんなタイミングで、アメリカでちょっと話題になっているのが、エタノールエンジンからの排ガスはガソリンより有害ではないか? というニュース。代表して、ScienceDailyのニュース(4/18)から。Ethanol Vehicles Pose Significant Risk To Health, New Study Finds

Ethanol is widely touted as an eco-friendly, clean-burning fuel. But if every vehicle in the United States ran on fuel made primarily from ethanol instead of pure gasoline, the number of respiratory-related deaths and hospitalizations likely would increase, according to a new study by Stanford University atmospheric scientist Mark Z. Jacobson. His findings are published in the April 18 online edition of the journal Environmental Science & Technology (ES&T).
スタンフォード大学の研究によると、エタノールを主体とした燃料と純粋なガソリン燃料で、自動車排ガスによる大気汚染をシミュレーションした結果、どうやらエタノールの方が人的な被害が多くなるという結果が出たようだ。この学会のニュースはこちらで、論文はこちらで読めるようだ(論文閲覧は有料)。
Jacobson programmed the computer to run air quality simulations comparing two future scenarios:

A vehicle fleet (that is, all cars, trucks, motorcycles, etc., in the United States) fueled by gasoline, versus

A fleet powered by E85, a popular blend of 85 percent ethanol and 15 percent gasoline.

"We found that E85 vehicles reduce atmospheric levels of two carcinogens, benzene and butadiene, but increase two others - formaldehyde and acetaldehyde," Jacobson said. "As a result, cancer rates for E85 are likely to be similar to those for gasoline. However, in some parts of the country, E85 significantly increased ozone, a prime ingredient of smog."

この研究は2020年のアメリカ、特にロサンゼルスの大気汚染をコンピュータでシミュレーションするもので、全ての車(乗用車、トラック、バイクなど)が通常のガソリンで走る場合と、エタノールを85%含むE85燃料で走る場合を比較したようだ。E85の場合、発がん物質であるベンゼンとブタジエンの大気濃度は減少するものの、逆にホルムアルデヒドとアセトアルデヒドが増えるため、がんの発生には大きな違いはないという結果。むしろオゾンが大幅に増えることによる被害が大きくなるという計算のようだ。どんな計算をしたのか興味あるのだが、
"The chemicals that come out of a tailpipe are affected by a variety of factors, including chemical reactions, temperatures, sunlight, clouds, wind and precipitation," he explained. "In addition, overall health effects depend on exposure to these airborne chemicals, which varies from region to region. Ours is the first ethanol study that takes into account population distribution and the complex environmental interactions."
とあり、地形条件や気象条件なども考慮した光化学反応を組み込んで、大気中の有害物質濃度およびヒトへの暴露の程度を推定したシミュレーションのようだ。このニュースからは、ベースとなる自動車からのアルデヒドやオゾン、あるいはNOxなどの排出量をどのように推定しているのかは不明だ。

日本でも、ETBE含有のガソリンの発売が始まるようだけど、二酸化炭素の話ばかりで、排ガス中の有害物質の話がほとんど出てこないのはどうしてだろう? JARI(日本自動車研究所)の資料によると、自動車エンジンにアルコール燃料を使用した場合、空燃比が希薄側になり、NOxとアルデヒドが増加し、CO、HCが減少すると書かれている。一方、アルコール専用エンジンの場合には、CO、NOxおよびオゾンが減少するがアルデヒドは増加するとのこと。燃料が変化するのであれば、当然エンジンや触媒もそれに合わせる必要があるし、現状のエンジンで燃料だけを大幅に変えるケースを検討してもあまり意味はないのかもしれない。

この研究も、現在の技術のままで将来を予測しているような部分がありそうで、自動車側の技術の進歩で結果は大きく変わってしまうと思われる。とは言うものの、自動車燃料のバイオ化は、食料や飼料と燃料との資源の争奪戦の問題もあるし、量も量だから影響は非常に大きいわけで、過熱気味?の地球温暖化防止ブームに乗って、闇雲にエタノールに群がる動きに対し、「ちょっと待て!」と、少し冷静に考えさせる意味ではこういう発表も悪くないかもしれない。

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2007/03/12

豪州に続き、EUも白熱電球を禁止の方向

アジア・欧州経済情報/NNAのニュース(3/12)から。首脳会議、白熱電球の禁止で合意

欧州連合(EU)は9日、ブリュッセルで開いていた首脳会議(サミット)で、エネルギー効率改善に向け、2010年までに従来型の白熱電球の使用を禁止する方針を固めた。地球温暖化対策のための行動計画に盛り込まれた。

フィラメントを使った白熱電球は蛍光灯などと比べて同じ光量での消費電力が大きいため、節電型電球への切り替えを促進する。本決まりになれば、街灯や公共施設、オフィスだけでなく、一般家庭でも節電型電球の使用が義務付けられる。

このほかサミットでは、1月に欧州委員会が公表した新たなエネルギー政策が承認された。二酸化炭素(CO2)など温室効果ガスの排出量を2020年までに1990年比で20%削減するほか、エネルギー消費全体に占める再生可能エネルギーの割合を2020年までに20%に引き上げる内容だ。

うーむ、1/31のエントリでカリフォルニア州が白熱電球を禁止?という話題を取り上げた時には、法案名称も奇抜だったし、まさかこんな規制が世界に広まるとは思いもしなかったのだが、わずか1か月半の間に、ニュージャージー州オーストラリア、そして今回のEUと、立て続けに白熱電球を禁止する方向に走り出したようだ。

今回のEUサミットでは、2020年までに温室効果ガスの排出量を1990年に対して20%削減するというのをポスト京都議定書の数値目標としたようだが、今後具体的な対策の部分ではいろいろと議論が出てきそうだ。一方で、この白熱電球禁止というのはある意味でとてもやりやすいし、わかりやすいという点がキーポイントとなっているような気がする。

白熱電球を地球温暖化対策のスケープゴートのように扱うことは、比較的反対意見が出にくいという点でも、温暖化キャンペーンを進めるのに役立ちそうだ。しかも、実際に省エネルギー効果は明確だし、長期的にはコスト的にもメリットがあるはずだから、まあ、電力会社以外は、電機メーカーも一般消費者も誰も困らないという点で、推進しやすいのは確かだろう。

ということで、環境対策で先進的というイメージがあるEUが踏み切ることで、世界全体がそろって白熱電球禁止の方向に向かうということになりそうな気配も出てきた。。 まあ、それはそれでいいのだけど、「それ自体は特に有害でも危険でもないけれど、他と比べてエネルギー効率が悪いからという理由だけで、その販売が禁止される製品」というのには、他にどんなものがあるのだろう? という素朴な疑問も。。 

一方で、法律による白熱電球の禁止が容認されるのであれば、他にも禁止されてもいい製品というのもありそうな気もするし、例えば燃費の悪い車だとか、効率の悪い家電製品などは禁止しなくていいのか? なんて意見も出てきそうだ。。 

とはいえ、日本も遠からず同じ方向に向かうのだろうな。。

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2007/02/27

塩ビサッシ内窓の効果

化学工業日報の記事(2/26)から。環境省、塩ビサッシ内窓の採用拡大

 環境省が塩ビサッシ内窓の採用を拡大する。大臣室などの個室を中心に、今年度内に実施する予定。同省では京都議定書の温室効果ガス削減目標達成に向けた省エネ対策として塩ビサッシに注目し、昨年10月にモデル工事として初めて省内に設置した。その効果が実感できたことから採用を増やすことにした。塩ビサッシは高断熱で結露を防ぐなどの特徴を持つ。アルミ製など既存サッシに比べ冷暖房効率が飛躍的に向上し省エネ、温暖化ガス削減に寄与し遮音性にも優れる。京都議定書の温室効果ガス削減目標達成には、民生部門での対策も求められており、環境省では塩ビサッシ(内窓)による断熱リフォームの普及に期待を寄せている。
小池さんが大臣の時には、クールビズ、ウォームビズ、もったいない風呂敷など、なかなか積極的なプロモーションが目立った環境省だが、最近はすっかり目立たなくなってしまった。恐らく、今の環境大臣の名前と顔を知っている人はかなり少ないのではないだろうか? この塩ビサッシ内窓の採用による省エネについても、小池さんの時代に導入されたものらしい。

どんなものか探してみると、PVCニュースに昨年10月に導入した際の記事が載っている。これによると、合同庁舎5号館の環境省の23階と26階の既設の窓の内側に、複層ガラス+塩ビサッシのうち窓を施工したとのこと。低熱伝導率の塩ビサッシと複層ガラスにより、かなり断熱性能が向上するらしい。関連ニュースが掲載されている、塩ビ工業・環境協会のトピックスによると、樹脂サッシ普及促進委員会というのがあるようだ。

この、樹脂サッシ普及促進委員会のサイでには、樹脂サッシの効果について具体的なデータを示して、わかりやすく説明してくれている。普通の単層ガラス+アルミサッシに比べると、これに複層ガラス+塩ビサッシの内窓を施工することによって、サッシから逃げる熱量が36%程度に削減されるということで、かなりの省エネ効果が期待できるようだ。この中央合同庁舎第5号館霞ヶ関の歴史によると昭和58年の完成とのことであり、この時期であれば気の利いたビルなら最初から複層ガラスとか2重サッシになっていても不思議はないような気もするが、そうではないのかな。。

今回環境省の工事を担当したらしい、大信工業の情報を見ると、今なら既設住宅にこの塩ビサッシ内窓を取り付ける断熱リフォーム工事を行うと、NEDOから補助金が出るケースもあるようだ。

そういえば、環境省はこの冬、庁舎内の暖房を原則として停止するというニュースがあったが、実態はどんな様子なのだろう? 冒頭のニュース記事では、「効果が実感できた」とあるけれど、何と言っても今年は記録的な暖冬だったわけで、塩ビサッシ工事の有無で比較可能とはいえ、本当の実力はまだ評価できていないというところだろう。。 

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2007/02/26

バラスト水の処理技術

NIKKEI NETの記事(2/26)から。船に積む海水中の微生物を破壊、外来種問題防止へ新技術

 空荷の船体を安定させるために積む海水「バラスト水」中に含まれ、外来種問題を引き起こす微生物などを、バラバラにして高確率で殺す新技術を日本海難防止協会(東京)や三井造船などの研究グループが26日までに開発した。

 簡単かつ低価格な装置で、船に搭載して国際的な「バラスト水管理条約」の基準をクリアできる世界初の技術となる可能性があり、実現すれば日本など各国の条約批准にも弾みがつきそうだ。

 バラスト水をめぐっては、その中に含まれるプランクトンや貝、海藻などが本来の生息地から他国に運ばれ、外来種として生態系を壊すことが問題化。オーストラリアなどではアジアのワカメが繁殖、米国の5大湖では東欧原産の貝が発電所の吸水口を詰まらせるといった被害も出ている。

 国際海事機関(IMO)が2004年、国際船舶のバラスト水に厳しい生物濃度基準を定めた条約をまとめ、この基準を満たす処理技術の開発が課題になっている。

この記事では、バラスト水中の微生物の写真が掲載されている一方で、この技術の内容については何も触れられていない。日本経済新聞の2/26の夕刊には、
 グループは、日本財団の助成を受け、バラスト水の取水パイプ内に幅1ミリ以下のすき間を何本も入れた仕切り板2枚をはめる手法を開発した。2枚の板は、すき間が互い違いになるように配置。ポンプで吸い上げた海水がすき間に勢いよく流れ込んだときに、流水中で速度の速い部分と遅い部分ができるようにして微生物の体がちぎれるようにした。また、水が細いすき間を通る際に生じた泡が砕けるときに発生する圧力でも微生物を破壊する。

 殺菌力のあるオゾン発生装置を併用して体の小さい細菌も殺し、陸上実験では微生物がほぼ100%死滅した。

と書かれている。今ひとつ具体的にイメージしにくい説明だが、ある程度大きな生物は機械的に破壊し、微生物はオゾン殺菌で殺すという二段構えのようだ。

バラスト水については、ウィキペディアに説明がある。日経の夕刊の記事によると、このバラスト水中の生物の量を一定以下にすることを定めた国際条約は2004年に採択されたものの、実用レベルの処理技術が未開発であることを理由として日本を含む多くの国が批准していないため、まだ発効していないようだ。現時点で批准しているのはスペインなどの6カ国。発効するためには、30カ国以上が批准し、かつ合計商船船腹量が世界の35%以上となる必要があるとのこと。

今回の技術については、日本財団 六分儀 海・船によると、スペシャル・パイプ・ハイブリッド処理装置と名付けられている。このページには、実際の装置の模式図や写真が掲載されており、構造や原理がよくわかる。スリットのすき間と死滅する微生物のサイズの関係が不明だが、スリットサイズのほうがかなり大きそうに見える。このようなスリットを高速で通過させるだけで、海水中に含まれている生物の大半が死滅するってのも、考えてみるとちょっと面白い技術である。

より一般的なバラスト水の処理方法については、こちらに詳しい。物理的除去、機械的殺滅、熱処理、化学的処理などがあるものの、大きな生物と微生物を共に処理する必要性から、これらを複合させた技術が本命となっているとのことで、今回のスペシャル・パイプ・ハイブリッド処理技術も、その方向に沿ったものと言える。日経の記事では、今回の技術が基準をクリアする世界初の技術となる「可能性がある」と書かれているが、他の技術も実用化に向けてテスト中のようであり、今回の技術が特に飛びぬけているわけではなさそうに見える。

説明を読む範囲では、船舶への取水時に完全に殺してしまうというもののようだが、その後の航海期間中に、再びいろんな生物が繁殖してしまうことはないのだろうか? それなりに栄養分を豊富に含んでいそうな水だし、一旦完全に殺菌したとしても、航海中に大気などから微生物が混入するのを完全に防ぐのも非現実的だろう。とすると、廃水時にも再び同じ装置を通して微生物の破壊と殺菌を行うのだろうか。。

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2007/02/07

第二世代バイオディーゼル燃料とは?

asahi.comの記事(2/6)から。都バス、廃油・脂身でも走行実験へ 有害物質減目指す

 二酸化炭素や排ガス中の有害物質を減らすため、東京都は6日、トヨタ自動車や新日本石油などと手を組み、次世代バイオディーゼル燃料で都バスの走行実験を07年度に実施すると発表した。ラードなど動物性の廃油や、食肉処理の過程で不要になる牛や豚の脂身も使う。早ければ3~5年後の実用化を目指す。

 次世代バイオ燃料の精製法は、新日本石油とトヨタ自動車がすでに開発。トヨタと日野自動車も、大型ディーゼルエンジンに与える影響を調べている。都は07年度中に路線バス2台を使い、営業運転中の走行試験を行う計画だ。

 バイオ燃料は軽油と違い、燃やしても二酸化炭素の増加にはつながらないという。ただ、従来のバイオ燃料は菜種や大豆などの植物油が原料。時間がたつと劣化し、エンジンの故障などにつながることがある。

 次世代バイオ燃料は軽油と同じ成分のため、「理論上は軽油を一切使わずに車を走らせることも可能」(都環境局)だ。燃焼効率が上がるため、燃えかすとして大気中に排出される粒子状物質(PM)も大幅に減るという。

何となくピントのはずれた記事のような印象が。。 特にタイトルの「有害物質減目指す」とか、最後の「大気中に排出される粒子状物質も大幅に減る」とか、どうやら次世代バイオディーゼル燃料を使うと、現在使われている軽油よりも排気ガスがクリーンになると言いたいように読める。でも、二酸化炭素が増えないというカーボンニュートラルの観点はともかくも、バイオ燃料は本当に石油系燃料よりもクリーンに燃えるのだろうか??

東京都の報道発表は、比較的詳しく書かれている。これによると、現在日本でバイオディーゼル燃料と呼ばれているのは、主として第一世代のFAMEというもので、都営バスでは軽油にFAMEを5%添加混合した混合燃料をこの春から使い始めるらしい。

調べてみると、FAMEは、Fatty Acid Methyl Ester(脂肪酸メチルエステル)の略で、主として廃食油(天ぷら油など)を回収し、これにメタノールを加えてエステル化し、精製したもののようだ。実際のFAME製造の様子については、実際にFAMEを製造しているフェニックスのBDFプラント精製の流れに詳しい。

また、FAMEのディーゼル燃料としての特性などは、自動車工業会のプレゼン資料がわかりやすく、しかも詳しい。この資料によると、FAMEの添加によって、ディーゼルエンジン排ガスはNOxがやや増加するものの、CO、HCおよびPMは減少するようだ。芳香族を一切含んでいないということが影響しているのだろうか? 一方で、酸化安定性や重合安定性の問題や、不純物(アルカリやメタノールなど)の問題があるようだ。

これに対して、今回の目玉とも言える、第二世代のバイオディーゼル燃料は、BHD:バイオ原料油の水素化処理油(Bio Hydrofined Diesel)と呼ばれるもので、新日本石油とトヨタ自動車が開発してきたものらしく、2007年度中に都営バスによるデモ走行を実施する予定のようだ。この説明図によると、BHDは、植物油、廃食用油および獣脂などを原料とし、これを大型の石油精製プラントで水素化精製して作るものらしい。

環境省のバイオ燃料に関する調査資料の最終ページに、新日本石油とトヨタによるエコ軽油に関する取組みが掲載されているが、これが今回の第二世代バイオディーゼル燃料BHDのことだと思われる。ここでは、植物由来の原料と石油由来の原料を混合して水素化分解し、各種留分を得ているようだ。

FAMEとは異なり基本的に既存の軽油とほぼ同等の成分・組成となりそうだから、安定した原料供給体制ができれば、比較的実用化のハードルは小さそうだ。もっとも、冒頭の東京都の資料にもあるように、その原料調達の仕組みをどう作り上げるかが最大の課題となるようだ。

朝日新聞が強調している排ガスのクリーン化については、第一世代のFAMEの場合、多少のPMの減少は期待できるようだが、第二世代のBHDの場合には既存の軽油と同等レベルと考えた方が良さそうに思える。バイオ燃料の意義は二酸化炭素の排出削減とか枯渇性資源の使用量削減といった点にある筈で、有害物質が減るというのはちょっとミスリーディングじゃなかろうか? 少なくとも、「燃焼効率が上がるため、燃えかすとして大気中に排出される粒子状物質(PM)も大幅に減る」ってのは、もしも既存の軽油と比べているのだとしたら、違うんじゃないの?と思うけど。。

考えてみると、ついこの前までは次世代エネルギーの主役として、水素や燃料電池が脚光を浴びていたのに、最近はすっかりバイオ燃料が主役の座に躍り出た感があり、ニュースで取り上げられることが多くなったようだ。ブッシュさんがバイオ燃料に言及したのも大きいのかもしれないが、マスコミもまた節操も無くあっさりと乗り換えた感もあって何だかなあ、というところだ。おまけに、この記事のようにポイントがずれているとなると。。。

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2007/02/02

「フタル酸ビス」って何? 環境ホルモン??

YOMIURI ONLINEの記事(2/1)から。「トイザらス」おもちゃから環境ホルモン検出、回収へ

 おもちゃ販売大手「日本トイザらス」(川崎市)が販売した塩化ビニール製のおもちゃから、食品衛生法で使用が禁じられている「フタル酸ビス」が検出されたことが、1日わかった。

 フタル酸ビスは環境ホルモンの一種とされ、なめたりすると、将来的に生殖機能などに影響が出る可能性もあり、同社は川崎市の指示で回収を決めた。

 問題のおもちゃは「JUST LIKE HOME フルーツセット」。中国から2万520個を輸入し、1月30日までに全国で1万6768個を販売した。

 フタル酸ビスはプラスチックなどを柔らかくするために使われるが、おもちゃへの使用は2003年8月から禁止された。大阪府堺市が、抜き取り検査でフタル酸ビスを検出、川崎市に連絡していた。

「フタル酸ビス」って化合物の名前は寡聞にして聞いたことがない。。 おまけに、「環境ホルモンの一種」と書いてあるけど、いわゆる「環境ホルモン」という用語は少なくとも環境省などは既に撤回していたはずだけど、新聞社はまだ使っていたのか? 他紙を調べてみると asahi.comのトイザらスで販売の玩具から禁止成分 川崎市が回収指示では、
フタル酸ビスは、合成樹脂をつくる際に広く使われている。ホルモンに悪影響を及ぼす可能性が指摘されており、国内では玩具などへの使用が禁止されている。
MSN毎日インタラクティブの日本トイザらス:おもちゃから禁止柔軟剤では
中国から輸入したポリ塩化ビニール製のおもちゃから食品衛生法で使用が禁止されている柔軟剤「フタル酸ビス」が検出されたため、販売した計2万520個を回収すると発表した。通常の使用では人体に影響はないという。
と、共に環境ホルモンという言葉は使っていないが、物質名は「フタル酸ビス」になっている。一方、Sankeiwebのおもちゃから「フタル酸」検出 トイザらスが回収へでは、
 玩具販売大手「日本トイザらス」(川崎市)が販売しているおもちゃから、内臓への毒性や内分泌撹乱(かくらん)化学物質(環境ホルモン)の疑いが指摘されている化学物質フタル酸ジエチルヘキシル(DEHP)が検出されていたことが1日、分かった。
とあり、産経だけが化合物の名称を「フタル酸ジエチルヘキシル」と記載している。(もっとも、タイトルに「フタル酸検出」とあるのはいただけない。フタル酸と2-エチルヘキサノールとのエステルであるフタル酸ジエチルヘキシルはフタル酸とは全く別の物質である。) 

物質名については産経が一番まとものようだが、一方で環境ホルモンについては毎日だけがホルモンという言葉を全く使っていない点でもっともまともと言えそうだ。

さて、フタル酸ジエチルヘキシルの正式名称はフタル酸ビス(2-エチルヘキシル)(化学物質ファクトシート)である。ここで、「ビス」は後に続くカッコ内の基が2個あるよということを示す倍数接頭辞であり、ビスの後の単語を省略してしまうと意味不明となってしまう。

ということで、恐らく公式発表では「フタル酸ビス(2-エチルヘキシル)」と正しく表記されていたものを、記者がカッコ内の「2-エチルヘキシル」はフタル酸ビスの別名か何かだろうと勘違いして、文字数を節約する目的で省略してしまったのではなかろうか? 念のために、「フタル酸ビス」がフタル酸ビス(2-エチルヘキシル)を省略する用語として定着しているのかどうか調べてみたが、「フタル酸ビス」だけで使われている例は他には見当たらなかった。。 それにしても、朝日、読売、毎日と3社そろって同じ過ちを犯すなんてこともあるのかねぇ。。 ちょっと調べてみればすぐわかることなのに。

実は、この新聞記事は問題が他にも問題が多い。このDEHPが環境ホルモンと呼ぶのが適当かどうかという部分もさることながら、そもそも問題となるおもちゃでどの程度の濃度のDEHPが検出されたのか、それを子どもが口にした際にどの程度の危険が存在すると考えられるのか、といった定量的な情報が一切出てこないことだ。これでは、いたずらに不安を煽るだけになるだけだ。試しに、「フタル酸ビス」でブログ検索してみると、案の定ほとんどが「生殖機能に異常が出るかも」という点に反応して、怖い、危険だ、という論調である。

DEHPについては、今までいろいろと調査したけど、生殖機能への異常も含めて、ヒトに対する内分泌かく乱作用は見当たりませんでしたという結論が出ているはず。(参考:環境省の化学物質の内分泌かく乱作用についてや、市民のための環境学ガイドの環境ホルモン終焉) なお、市民のための環境学ガイドの記述によると、おもちゃへのフタル酸エステルの使用禁止は、

これらの化合物が環境ホルモン性があるという理由で禁止になったのではなくて、通常毒性がたまたまセルトリ細胞という精子のお母さんみたいな細胞に対して出るために禁止になった
ということのようだ。

先にあげた化学物質ファクトシートや、製品評価技術基盤機構の初期リスク評価書に非常に詳しくまとまっているが、フタル酸ビス(2-エチルヘキシル)には内分泌かく乱作用がないとしても、全く無害ということではなく、ヒトや環境に対して何らかの有害性を持っているのは確かである。今回のトイザらスのおもちゃについては、明確な法律違反であり、きちんと対処する必要があることは言うまでもない。

今回の記事は科学面ではなく社会面の記事のようなので、担当記者の不得意分野だったのかもしれないけど、いろんな面であまりに不勉強と言えるし、こうして不正確な情報が世の中に蔓延していってしまうのだと思うと、いろいろと考えさせられる。。

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