日立の職務発明訴訟での発明者の貢献度
各社報道しているけど、代表してasahi.comの記事(10/17)から。元社員への発明対価1億6千万円支払い確定 日立訴訟
CDやDVDなど光ディスクの読み取り技術を発明した日立製作所の元社員が、職務上の発明に対する正当な対価の支払いを求めた訴訟の上告審判決が17日、あった。海外で登録した特許についても日本の特許法に基づいて対価が支払われるべきかどうかという争点について、最高裁第三小法廷(那須弘平裁判長)は「日本の特許法が適用される」との初判断を示し、日立の上告を棄却した。約1億6000万円の支払いを命じた二審・東京高裁判決が確定した。というものだが、同一の発明に基づく海外特許によって得られた利益も対価算出の対象とするというのは、法的にはともかくも、納得性という観点からはリーズナブルな判断だと思う。それよりも、気になったのは発明者の貢献度。実は今日の日経新聞朝刊3面には大きく「発明者貢献度20%と高く認定」と書いてある。朝日の記事と何故に数値が異なるの? 日経新聞には社内発明家が受け取る金額としては、確定判決では過去最高額。和解で終わった訴訟も含めると、対価としては青色発光ダイオード訴訟の6億円に次いで2番目。
訴えていたのは同社の元主管研究員、米沢成二さん(67)。対価の一部として2億8000万円の支払いを請求していた。
日本の特許法は、会社が、発明をした従業員から特許権を譲り受けた場合、従業員に「相当の対価」を支払うよう義務づけている。第三小法廷は「特許権を譲り渡す時点では、どの国に特許を出願するのかなどが確定していないことが多い」と指摘。国内特許と同じ発明についての特許であることも踏まえ、「外国特許分にも、日本の特許法が類推適用される」と結論づけた。
米沢さんの発明に対する貢献率については一、二審とも14%と認定し、最高裁でも維持された。
二審判決によると、米沢さんの発明は、日本のほか、米英仏など6カ国で特許登録された。これに基づき、日立はフィリップスなど15のメーカーから支払われた特許実施料や、メーカーが特許を相互に利用しあうクロスライセンス契約などで計約11億8000万円の利益を得たと算定した。
米沢さんは69年に入社。96年に退社するまでに300件以上の職務発明を完成。今回問題になったもののうち最も主要な特許は、77年に出願されて90年に登録された。判決後、「日夜、企業で働く技術者を勇気づける判決だ」と語った。
東京高裁は発明者の貢献度を「20%」と認定。日立のライセンス交渉での米沢氏の貢献を特に評価したためだ。青色発光ダイオード(LED)訴訟の和解で示された貢献度は5%だった。米沢氏は他社製品が同特許を侵害しているか否かを簡単に判定する装置を考案。日立は他社とのライセンス契約交渉を有利に進めることができたという。とある。この手の話を調べるにはパテントサロンが役に立つ。トピック 職務発明問題には、関連したニュースや判決などへのリンクが整理されている。ところが、残念なことに1審と2審に関係するリンクはほぼ全滅。(日本のニュースサイトは何とかならないのだろうか? 欧米のニュースサイトはかなり古いものでもそのままのURLで残っていてとても便利だ。) ニュースはともかく、判決文へのリンクも切れている。。(裁判所のサイトがリニューアルしたせいだろうか?)焦点の特許は社内で最高の戦略特許金賞も受賞。こうした点も考慮し、高裁判決は「他社とのライセンス交渉に自ら参加し日立に利益をもたらしたことは、発明者だからこそなし得る特別な貢献」と認定、20%という高い貢献度を認めた。
かろうじて残っていたのが、同じパテントサロンの鮫島さんのコラム。これは1審判決の解説記事だが、発明者の貢献度が20%で、発明者のうち米沢さんの貢献度を70%、合わせて14%ということらしい。2審については、Tech-On!の記事が残っていて、やはり発明者全体の貢献度が20%で、米沢さん個人の貢献度を14%としているらしい。
青色LEDの中村さんの貢献度が5%であることと直接比較するのは容易ではないので、20%が妥当かどうかは何とも言えないのだが、問題はその根拠だ。残念ながら高裁判決文がネットには載っていないようなので、先の鮫島さんのコラムに掲載されている鮫島さんの整理メモと日経新聞の記述から読み取ることになるが、何となく違和感が残るのだ。
例えば、他社製品が特許を侵害しているか否かを簡単に判定する装置を考案したことが貢献度に算入されたようだけど、もしも同様の装置を発明者以外の技術者が考案していたら、その人はその貢献度見合いの報酬を得られるだろうか? ライセンス交渉に自らが積極的に参加したことも貢献度に算入されたみたいだが、発明者以外でライセンス交渉に参加した人たちはその貢献度見合いの報酬を得てはいないだろう。
つまり、職務発明における発明者の貢献度を算出する際に、発明以外の部分での貢献を算入するのはどうなのよ? ということだ。それらの仕事は、その発明とは別の通常の職務なのではないか? 発明者がある発明をした後、その発明が実を結び、それによって会社が利益を得るプロセスは、その発明を事業化して利益を生み出すためのたくさんの人たちの多くの仕事や、その発明に法的な効力を持たせるための知財関連の仕事など、多くの人たちの共同作業である。
それらの多く人の日々の仕事とは別に、特許法は元の発明の発明者に対してだけは特別に対価を与えることを認めていると理解していたのだが。。 本当に発明者以外ではなし得なかった仕事だったと言えるのだろうか? 発明者以外が行う同様の仕事と比べて余りにも不公平感が大きすぎないだろうか?
例えば日亜化学の場合だって、中村さん以外の人たちが青色LEDの実現のために色々と貢献しているはずだけど、彼らの多くは通常の給与以外に特別の報酬は得ていないだろうと思う。でも、中村さんの件では発明による利益は100億円以上だから、ほんの0.1%の貢献度でも1千万円以上になるのだが、それはルール上全く認められないのだ。同じ仕事をしたのが発明者か、それ以外の人かで、こんなに大きな報酬の違いが出てしまいかねない。
やっぱり発明の貢献度の算定は、発明そのものの貢献度に限定して計算するべきで、発明者の(発明以外の職務も含めた)貢献度とごっちゃにするべきではないと思う。
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